広島大学で何が学べるか2023
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●●●●●●●●●●15生物は目に見えない小さな生き物です。その中でもウイルスはとりわけ小さなもので、その本態は遺伝子です。細菌のように「細胞」ではなく、遺伝子であるDNAあるいはRNAが、ウイルスタンパク質などと結合した「物質」なのです。 ウイルスは、平均してだいたい100 nm(1 mmの1万分の1)の大きさしかありません。小さいので、遠心機を使用して濃縮しようとすると高速で回転させる必要があります。そのために超遠心機という特別な機器を使います。また、普通に目で見る顕微鏡(光学顕微鏡)では見ることができないので電子顕微鏡を使います。研究者が間違って感染して病気を起こす危険がありますので、バイオセーフティの取り決めに従って実験します。新型コロナウイルスを扱うときには、物理的封じ込めレベル3(P3, P=Physical Containment)の実験室で、ガウン、手袋を着用して実験します。P3実験室は、室内が常時、陰圧になっ医学部大学院医系科学研究科 教授ていて、病原体が部屋の中に漏れても、外界には出ないようになっています。 新型コロナウイルスのパンデミックが起きて、感染してしまった人もいるかもしれません。また、皆さんは学校でマスクをしなければならなくなったり、修学旅行や運動会といった行事が中止あるいは制限を受けたりして苦しい思いをしたのではないかと思います。 ウイルスを研究することは、治療薬やワクチンを作ってウイルスに対抗するために重要です。広島大学でも新たな薬の開発や既存のワクチンや薬の効果判定などを行っています。また、ウイルスを道具として使うことも行われます。例えば、新型コロナウイルスに対するアストラゼネカ社のワクチンは、アデノウイルス(風邪のウイルスの一種)を改造して、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を作ると同時に、ヒトの体内で増殖しないように安全にしたものです。また、他の例では、分化した細胞に4つの遺伝子(山中ファクター)をウイルスを使って入れると、発生が初期化されてiPS細胞になります。このようにウイルスを運び屋(ベクター)として使うわけです。 こうした応用の側面もありますが、一方でウイルス自体が興味深いものです。例えばヒトコロナウイルスOC43は、風邪の病原体として人類に蔓延しているウイルスの一つですが、19世紀末に世界的な大流行を引き起こし、100万人が死亡した「ロシアかぜ」との関連が指摘されています。これはウイルスの遺伝子系統樹を調べてわかったことですが、新型コロナウイルスもいずれ弱毒化して人類社会に定着する可能性を示唆しています。 ウイルスは細胞に感染して初めて増えることができます。細胞にどのように感染するかを研究することは、細胞の機能を研究することでもあります。また、動物個体に感染することを考えると、体内の臓器への感染の広がりや、免疫系の関与も研究することになります。ウイルスから研究が広がっていきます。〈背景写真〉新型コロナウイルスオミクロン株の電子顕微鏡写真。次々に新たな変異株が登場する新型コロナウイルスは、まるで意思を持って人間の対策や免疫をかいくぐっているかのように思えるが、変異の正体は子世代へのコピーミス。一本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するコロナウイルスはコピーミスが起きやすく、さまざまな変異株が生まれる中で、対策や免疫で淘汰されなかったタイプが残り、感染が拡大する。新型コロナウイルスに感染した細胞。青色の部分が細胞核、緑色が新型コロナウイルスのNsp3タンパク質、赤色がNタンパク質(細胞質に分布)だが、細胞を隔てる細胞膜が壊れて隣同士の細胞が融合している様子がわかる。非常に軽量なウイルスを取り出すための超遠心機。試料を入れた黒いチューブを超高速回転させウイルス粒子を沈殿させて分離する。自立した世界的研究拠点へと成長する可能性のある研究拠点を選出し、重点支援を行います。ポリオキソメタレート科学国際研究拠点オルガネラ疾患研究拠点都市―農村流域圏の健全循環創成(SATO NET創成)次世代太陽電池研究拠点MBR拠点「光」ドラッグデリバリー研究拠点インキュベーション研究拠点SAKAGUCHI TAKEMASA専門研究分野ウイルス学、増殖と病原性発現機構の研究教育ヴィジョン研究センター次世代を救う広大発Green Revolutionを創出する植物研究拠点スマートバイオセンシング融合研究拠点日本食・発酵食品の革新的研究開発拠点―日本食の機能性開発センター―次世代の教育をデザインする〈教育ヴィジョン研究センター〉広島大学教育ヴィジョン研究センター(略称EVRI)は、社会変革・教育変革・知識生成・学びの権利を追究し、ヒロシマ発、EVRI発の「育てる」「学ぶ」を支える理論・政策・実践・環境を”By EVRI For Everyone”(すべての人のための教育の実現を目指す)の精神で提案し、教育デザインに関する研究・開発を推進していきます。世界トップレベルの研究拠点の創出へ坂口 剛正微ウイルス研究から広がる世界―ウイルスの生物学を研究して、治療や予防に広げていく。

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