広島大学で何が学べるか2023
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活断層インドプレート側13広島大学FE・SDGsネットワーク拠点(NERPS)は、本学に限った組織ではなく、広く世界に開かれたネットワーク拠点であり、次の3つの特徴を持つ教育研究拠点になることを目指しています。1 国際通用性のある研究力に裏づけられた平和、地球環境、SDGsに関係する研究拠点2 人文社会科学の研究者も参加する問題解決型教育研究拠点3 個人、NGOs、企業、政府、国際機関など多様なアクターがグローバルに連携する教育研究拠点※FE:future earth(フューチャーアース)の略。地球環境研究に関わる科学者の国際的なネットワークです。は、学生の頃から現在まで、ネパール・インド・ブータンにまたがるヒマラヤの活断層を対象に、いつ・どこで・どのぐらいの巨大地震が発生したのかについて、地形や地層の観察から明らかにしてきました。ブータンでは、JICA短期専門家として活断層分布図の作成を支援しています。また、2016年の熊本地震を引き起こした布田川断層をはじめ、全国各地の活断層についても、他大学の研究者とともに調査しています。 2018年7月に発生した西日本豪雨災害では、広島大学周辺をはじめ、各地で数多くの土石流が発生しました。発災直後から、学内の研究者や学生とともに、空中写真を用いた地形判読をもとに土石流の発生地点を明らかにし、その成果をいち早く公開しました。このような自然災害を後世に伝えるものとして水害碑があり、私たちは、災害前から広島県内の水教育学部大学院人間社会科学研究科 准教授害碑に着目して研究を行っていました。西日本豪雨災害をきっかけに私たちの研究が注目され、国土地理院の新しい地図記号「自然災害伝承碑」の制定へとつながったことから、国土地理院から感謝状をいただきました。 私が所属する教育学部社会系コースは、中学校の社会科教員や高等学校の地理歴史・公民の教員になることを希望する学生が入学してきます。今年度(2022年度)より「地理総合」が高等学校において必修科目になり、その中では「防災」と「フィールドワーク」が目玉になっています。防災で大事なのは、災害を“自分事”として考えることです。身近な地域の災害を正しく想定することが大切で、そのためには過去の災害を理解することが鍵となります。私の研究室では、現地での災害地形の調べ方や、実際の授業でどのように扱うかまで、トータルに研究を行います。地域の災害を意識した防災教育ビデオ製作(広島大学防災・減災研究センターと東広島市教育委員会との共同研究)に協力し、福山市立熊野小学校の防災教育を支援するなど、実際の教育現場との連携を心がけています。 一方、私は学生とともに、フィールドワークによる大学周辺の地理や歴史も調べています。その成果をまとめた書籍『西条地歴ウォーク』を刊行しました。自分たちで調べた成果が一般の書店に並ぶのは、学生にとって自信となり知的な財産といえます。フィールドワークによって災害・地理・歴史に関する新しい発見を導き、その発見や意義をわかりやすく伝えられる教員や研究者をこれからも養成したいと思っています。〈背景写真〉ネパール南東部におけるプレート境界の先端。活断層を境に川の地層が食い違う。左側がユーラシアプレート、右側がインドプレートにあたる。川の地層のため元は水平だったが、大きく変形していることがわかる。福山市熊野小学校での防災教育の様子(手前は水害碑)。熊原准教授らの水害碑研究は、石碑に関心を持つ学生が取り組んだ卒業研究から始まった。国土地理院地図に掲載されている自然災害伝承碑は、全国399市区町村1345基(2022年3月現在)に上る。ブータンでの活断層調査風景。熊原准教授が指しているのは、露頭(崖)に現れた断層だ。学生とともに刊行した『西条地歴ウォーク』と東広島市防災教育ビデオ。地元の地形や災害の歴史を知ることは、未来の災害への備えとなる。SDGs17の目標のうち、「目標4(質の高い教育をみんなに)」、「目標16(平和と公正をすべての人に)」に優先的に取り組み、SDGs全目標に貢献するという姿勢をイメージしたデザインです。ネットワーク型研究拠点広島大学FE※・SDGsネットワーク拠点Network for Education and Research on Peace and Sustainability〈NERPSロゴ〉ユーラシアプレート側KUMAHARA YASUHIRO専門研究分野自然地理学、変動地形学、防災教育熊原 康博世界トップレベルの フィールドワークから地表の歴史を伝えられる教員を育てたい。私

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