広島大学で何が学べるか2023
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広島大学について●●●●●●●12さんの住む家は快適ですか?実は、日本では冬の居住環境が「寒い」ケースが多いといわれています。これは、住宅自体の構造的な問題もありますが、伝統的に囲炉裏やこたつのように「暖を採る」手法が好まれてきた背景があり、家全体を暖める発想ではなかったことが関係しています。しかし家の中に極度な温度差があると、ヒートショックと呼ばれる健康被害を招く危険があります。「少ないエネルギーで健康な居住環境を工学的に創造すること」これが私の研究の基本となるところです。 通常は快適性を追求すると多くのエネルギーが必要になります。コロナ禍で換気のために窓を開ける機会が増えましたが、室内が寒く/暑くなるため、結果的に空調の利用が多くなってしまうことを実感したかもしれません。今行っている研究の一つに、エネルギーを増やさずに換気量を増やすシステム開発があります。「我慢」によってではなく、ヒートポンプと呼ばれる機器の有効利用が鍵になります。 ヒートポンプはエアコンや冷蔵庫と同じ原理で動きます。機器自体の効率は年々向上していますが、実は使われ方により省エネ性は大きく異なります。エアコンは室外機と室内機がセットで使用され、室外機は大気中の熱を集める役割をします。ヒートポンプの効率HiSIM※研究センターダイバーシティ研究センター両生類研究センタートランスレーショナルリサーチセンター防災・減災研究センター脳・こころ・感性科学研究センターゲノム編集イノベーションセンターは外気温により変動し、冷房時は低温なほど、暖房時は高温なほど省エネになります。しかし室内では反対に、外気温が高いほど冷房が、低いほど暖房が必要とされるのが一般的です。そこで、もっと適した熱源として地盤や河川、海水等の「未利用熱」が登場します。私は、瀬戸内地方に点在する池の水の持つ熱をヒートポンプに用いるシステム開発に取り組んでいます。これまでの研究で、深さ5 m以上になると底の方は夏でも15℃程度とかなり低温に保たれ、ヒートポンプでの利用に適した熱源であることがわかっています。都会にはない、この地方ならではのユニークなシステムになるのではと思っています。 広島大学では2021年に「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を行い、2030年までのカーボンニュートラル化に向けた活動を実践しています。カーボンニュートラルという響きからは、ソーラーパネル等により電気エネルギーを生み出す技術が注目されがちですが、一方で、建物で使うエネルギーを減らすことも重要です。未利用熱によるヒートポンプの導入も重要な鍵となりま●デジタルものづくり教育研究センター●AI・データイノベーション教育研究センター●IDEC国際連携機構●A-ESG科学技術研究センター●Town & Gown未来イノベーション研究所※HiSIM(Hiroshima-University STARC IGFET Model )は、広島大学が半導体理工学研究センター(STARC)と共同で開発した回路設計用トランジスタモデル全国共同利用施設放射光科学研究センター光速に近い電子が電磁石によって進む方向を変える時に「放射光」が発生します。この光は強力で、しかもさまざまな波長を含むことから「夢の光」と呼ばれています。本センターの研究成果は『Nature』や『Science』などのトップジャーナルに掲載されています。工学部大学院先進理工系科学研究科 准教授スリットスリットエアコンす。省エネという言葉は一見使い古されたようにも思われがちですが、今も昔も本質的な重要性は変わっていません。 建築は人の暮らしに一番近いところに寄り添う存在であり、その空間作りを通して人のために役立つことができるのは何よりの魅力です。広島大学から世界へ、社会へ、未来の研究者・技術者である皆さんと共に発信していければと思います。地中熱ヒートポンプ実験システムの外観温度℃〈背景写真〉水には自然対流があり、ヒートポンプの排熱を土よりも効率よく逃がすことができる。金田一准教授は、調整池などの貯留水を熱源として利用する「未利用熱ヒートポンプ」の実用化を目指している。床下空間にエアコンを設置し、スリットを通して館内に暖気を行きわたらせることで、1台のエアコンで全体を暖めることができる。14.015.016.017.018.019.020.021.022.023.024.0「工学は世の中のために、そして人々のためにある学問。エネルギーを増やさずに、人々が健康で快適に過ごせる居住環境を創出したい」と話す金田一准教授。学生には「建築で人の心と暮らしに寄り添う志を持ち続けてほしい」と願う。エアコンを利用したダクトレス全館暖房時の室内温度分布の解析例2F主寝室19.5℃和室22.8℃1F居室(西)18.2℃居室(東)17.8℃LD21.7℃KINDAICHI SAYAKA専門研究分野建築環境、建築設備、未利用エネルギー床下空間100年後にも世界で光り輝く大学へ ▼▼▼世界をリードする研究者 特色ある研究施設金田一 清香ヒートポンプにより実現する、健康快適でエコな建物作り。皆

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