越智:先生は、初めは昆虫に興味があって、それが分子生物学へと移り、「動的平衡論」につながったのでしょうか。福岡:子どもの頃からの虫好きが高じて、大学は農学部を選びました。当時の昆虫学は害虫駆除の研究ばかりであることに違和感を覚えていたのですが、1980年頃、分子生物学という新しい潮流が生まれ、遺伝子レベルで生命を理解しようという動きが広まりました。私はこの波に乗り、広島大学 学長越智 光夫おち・みつお/1952年生まれ。愛媛県今治市出身。広島大学医学部卒業後、整形外科に入局。1995年島根医科大学教授に。2002年広島大学大学院医歯薬学総合研究科教授に就任。広島大学病院長を経て2015年から現職。2015年に紫綬褒章を受章。なったと思うと、チョウになって飛び立つなんて、まさに「センス・オブ・ワンダー」(神秘さや不思議さに目を見張る感性)。残酷なことにサナギを開けたことがありますが、中はドロッとした茶色い液体で。影も形もないのにチョウが出てくるんです。同じ生物とは思えない。「一体なんで?」となりました。越智:原点には「なんで?」があるわけですね。学問のコアには「なんで?」が欠かせません。大人になっても、WHYを考え続けることが重要ですね。福岡:人間の本質的な問いはWHYだと思います。学問や探究はその答えを探すもの。でもHOWに寄ってしまい、「いかにして」のテクノロジーばかりを研究しがちです。本当はその奥のWHYを意識して学びを深めないといけないと常に感じます。越智:私も学生には、「HOWだけでなく、WHYも大切にしてほしい」とずっと言い続けています。そのためにも本学では、新入生の時から幅広い教養を身に付け、さらにはグローバルな視点で物事を捉えられるように、各種の取り組みを行っています。いろいろな「なんで?」に興味を持ち、世界に踏み出していく機会をどんどんつくっていきたいのです。ミクロな世界の研究を始めました。分子生物学では、我々生物学者はヒトの体を機械のように見ていました。つまり、一つ一つ役割を持ったミクロなパーツが集まり、精密な仕組みで体を動かしているという考え方です。越智:それらのパーツを変化させたり取り換えたりしてより良い体をつくろうとしたのが、遺伝子組み換えやiPS細胞などですね。福岡:その通りです。21世紀の初め、ヒトゲノム計画によって、パーツである21,000種類の遺伝子が解明されました。分子生物学が発展し、遺伝子についてさまざまなことが明らかになった一方、生命を情報として見過ぎていた点は反省しなければいけません。生命とは単にパーツの組み合わせではなく、細胞や分子が互いに連携しながら生命体を維持しているからです。私がこの考えにたどり着いたのは、ルドルフ・シェーンハイマーという科学者のおかげです。私は研のか。生命は絶え間ない流れ04Hiroshima University Magazine時には一歩後戻りをしながら、答えを追究し続ける。
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