被爆資料との対話通じ社会と科学をつなぐ 大学院修了後、歴史の教師として勤務しながら大学の研究室で資料整理や研究のアシスタントをする中で、「アーカイブズ学」に興味を持ちました。アーカイブズ学には、歴史的な資料をどのように保存・整備し、社会に対して公開していくかを研究する分野もあります。一般的には古文書や公文書を対象とすることが多いですが、私は物理学や医学などの科学史を中心としています。 社会人学生としてアーカイブズ学を学んでいたころ、調査で訪れた広島大学医学部の医学資料館で初めて被爆資料を目にしました。実物が残っていることに驚くと同時に、資料の保存方法が心配に。それを原爆放射線医科学研究所の担当に伝えたところ、図らずも私も一緒に資料を整備することになりました。放射線や医療など、内容が専門的であるため、本を読んだり他の研究者に教えてもらったりと勉強の毎日です。 アーカイブズ学には、「出所保存の法則」(資料が生まれた場所で保存する)と「現地保存の法則」(資料が既にある場所で保存する)という2つの考えがあります。これに従い、出所であり現地である広島で調査を進めています。被爆者から話を聞いていると、つらい記憶を呼び起こすものを残したくない人や、語る言葉が出てこない人が多いことを痛感します。アーキビストとしてこうした思いも大切に保存し、伝えていかなければならないと胸に刻んでいます。 アーカイブズで“社会と科学をつなぐ”ことが私の目標です。急速な科学の発達が非人道的な兵器を生み出すなど、私たちに負の影響を及ぼしてきた歴史から、現代社会は科学に対して不信感を抱いている部分があると思います。悪い面も含めた科学の業績をアーカイブズとして整理することで、両者が納得して良好な関係を築くお手伝いができればと思います。そのためにも、一般の人々に向けた展示活動はとても重要。特定の考えを押し付けず、見学者にはただ本物に触れ、思い思いに話をしてもらうことを大切にしています。被爆者の高齢化が進み、調査の時間はあまり残されていません。これからも被爆資料の整備にまい進していきます。広大のここがええね!広島はアーカイブズ学が盛ん。資料の整備と収集という2つの側面から日本のアーカイブズ研究をけん引してきたというポリシーがあります。Profile「依頼はなるべく断らないように」アーカイブズ学の師匠である学習院大学の安藤正人教授の教えです。困っている依頼者を助け、日本にアーカイブズ学を普及させるためだそう。カエラ―なんです10年くらい前からカエルやワニが好きで、グッズを集めています。広大博物館のヒロッグも大好き!久保田 明子 助教原爆放射線医科学研究所附属被ばく資料調査解析部歴史と思いを残す原爆アーカイブズを創る広島大学で活躍する若手研究者の2人に研究における志やプライベートについてお話を伺いました。志12Hiroshima University Magazine
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