HU-plus (vol.15) 2021年度5月号
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ネコのゲノムの一部になった“良いウイルス”をたどる 私の研究対象は、「内在性レトロウイルス」。ウイルスというと新型コロナウイルスを連想するかもしれませんが、悪いウイルスは全体のほんの一部にすぎません。病気を引き起こさないものも多く存在します。内在性レトロウイルスとは、レトロウイルス(逆転写酵素をもつRNAウイルスの仲間)の遺伝子が生き物のゲノムの一部として組み込まれたものと言われています。基本的に無害で、胎盤の形成に関わるなど宿主にとって有利に働くものも見つかっています。 もともと獣医を目指していた私は、学部の研究室でネコの免疫不全ウイルスについて研究していました。他大学の研究室を訪れた際、ネコの内在性レトロウイルスについて知り、“良いウイルス”もいるのだと感動。昔から、一度始めたことは最後まで突き詰めないと気が済まない性格だったため、研究者の道に進みました。 ヒトと違い、ネコのゲノムについてはあまり研究が進んでいません。研究で苦労するのは、素材であるネコの血液を集めること。知り合いの獣医に協力してもらったり、海外の学会で協力してくれる研究者を探したりしています。そうして世界中から集めたネコの血液から抽出したゲノムを調べたところ、全てのネコが同じ内在性レトロウイルスを持っていました。つまり、世界中のネコは同じ祖先から派生したということが分かったのです。このような誰も知らない新事実にいち早く触れられる瞬間が、研究の醍醐味です。今後は、ネコにしかない特徴との関連など、内在性レトロウイルスの機能について研究します。 実は、レトロウイルスがどこから生まれ、どのようにゲノムの中に侵入しているのかは解明されていません。「ウイルスの化石」といえる内在性レトロウイルスについて調べることは、ネコの生態だけでなく、ヒトのゲノム解読やウイルスの起源を知る手掛かりにもなるでしょう。悪いウイルスを排除するだけでなく、“ウイルスが何たるか”を明らかにし、うまく共存できるようになればと思います。ゲノムに残された痕跡からウイルスの謎を明らかにする下出 紗弓 助教ゲノム編集イノベーションセンターProfileおうち時間は映画コロナ禍でなかなか外出できないので、プロジェクターで映画を見るのにはまっています。ダイビングが趣味大学に入ってからダイビングを始めました。写真はかわいいコケギンポ。広大のここがええね!広大は若手研究者の数が多く、大学院研究科の再編でさまざまな人が集まるため、若手同士の幅広いつながりをつくれました。私の若手研究者紹介動物に関われる仕事がしたくて獣医を目指していました。11

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