学問の探求教授が答える、社会の“?”12Hiroshima University Magazineやまもと・たかし/主な研究分野はゲノム生物学。日本ゲノム編集学会会長を務める。大学院統合生命科学研究科山本 卓 教授最先端技術の基本から、安全性の倫理までをひもとくゲノム編集とはなにか講談社生物学 広島大学での保全生物学の講義が、本書を書くきっかけになりました。なぜトキやパンダを守るべきなのかという問いかけに多くの学生は「生き物が役立つから」と答えるのですが、理由はそれだけでしょうか。「守るべき」という気持ちはどこから来るのかを、学生たちと一緒に探っている中で考えがまとまりました。これはぜひ世界の人たちに共有すべきだと、出版を決意しました。 全ての命を守るという感覚が正義であり、ヒトには必要な感覚です。現代は、ヒトがあまりにも強くなり、他の生き物に与える影響が大きくなり過ぎました。一方、他の生き物への配慮ができる能力はヒトしか持ち得ません。自然は自分たちと同様に尊重すべきものだと気付き、他者を気遣うことが大切なのです。 この本の最終章「第5章 正義の生物学」では、私たちヒトがどうあるべきか、この社会はどうあるべきかについて、倫理や哲学、政治学、社会学にまで及ぶ内容を、生物学者の私が語っています。生物多様性の保全は、動物の命を守るだけでなく、命の重要性を考え、差別問題に向き合うきっかけになります。私は、この本で世界を変えたいと思っています。専門用語を避け、平易な言葉で書いていますので、文系理系に関係なく、ぜひ読んでもらいたいですね。他の生き物に配慮する能力はヒトにしかない〈正義〉の生物学トキやパンダを絶滅から守るべきか講談社やまだ・としひろ/主な研究は熱帯林の生物多様性とその保全。2015年 日本生態学会大島賞受賞。大学院統合生命科学研究科 山田 俊弘 教授生態学 ゲノム編集とは、遺伝子を狙って改変する技術のこと。2012年の「クリスパーキャス9」という編集技術の登場で、遺伝子改変は安価で簡単になり、ゲノム編集を活用した研究は一気に加速しました。この技術は2020年にノーベル化学賞を受賞しました。ゲノム編集はSFの世界を実現する夢のような技術です。例えば、栄養価の高い野菜や低アレルゲンの卵、がん治療に有効な細胞など。さまざまな研究分野で応用すれば、世界の食糧問題・環境問題の解決や創薬、疾患治療に貢献することができます。 本書では、ゲノム編集の技術の基本から遺伝子組み換えとの違い、社会に与える影響や安全性・生命倫理の問題まで、一般の方向けに具体的に解説しています。一般社会のゲノム編集への理解度はまだまだ低い。ぜひ文系理系を問わず高校生や大学生、科学好きの人に読んでいただき、まずは興味を持ってもらいたいと思っています。 2019年に「ゲノム編集イノベーションセンター」が本学に設立され、ゲノム編集の拠点として広島大学が知られるようになったと感じています。オープンイノベーションがますます加速していく時代。海外に負けないよう、地元企業との産学連携に積極的に取り組み、研究を通じて地方創生に貢献したいです。
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