HU-plus (vol.14) 2021年度1月号
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最近出版された広大発の書籍について、著者である教員自らが語ります。研究成果を社会へ還元広大教員が近著を語る11 本書は、私が2018年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロ国立図書館で発見した、キリシタン版辞書『日葡辞書』のカラー複製本です。キリシタン版辞書とは、カトリック布教を目的として16世紀に日本を訪れたイエズス会の宣教師が、日本語を理解するためにヨーロッパの活字印刷の技術を用いて出版したもの。ローマ字で書かれた32,000語もの日本語見出し語に、ポルトガル語で注釈がつけられています。 中世の日本には一般語彙の意味を詳しく掲載した辞書がなく、『日葡辞書』には当時の日本の文化や日本語の発音も記載されているため日本語史の研究にとって重要な資料といえます。また、ブラジルの図書館に所蔵された経緯を探れば、ポルトガル王室やブラジル皇帝などブラジルの歴史や文化の源流を紐解くことにもつながります。さらに、400年前のポルトガル語の資料としても貴重です。 今回発見したものが現存4冊目の『日葡辞書』であり、中南米で初めて発見されたキリシタン版です。複製本の出版に当たって、書誌紹介だけではなく、共同調査をしていたエリザ博士など複数の著者による多角的な解説を充実させました。全てに英語訳をつけたので、世界中の研究者に読んでもらいたいです。これからも研究を進め、眠っている未知のキリシタン版を発見したいと思います。宣教師が残した、中世の日本語を解き明かす辞書リオ・デ・ジャネイロ国立図書館蔵日葡辞書八木書店しらい・じゅん/主な研究内容は、キリスト教宣教師が残した「キリシタン版」の調査や日本語の歴史。大学院人間社会科学研究科白井 純 准教授国語学憲法改正にまつわる議論の源流を探る不戦条約戦後日本の原点東京大学出版会まきの・まさひこ/マックス・ウェーバーをはじめとする西洋の政治史が主な研究対象。大学院人間社会科学研究科牧野 雅彦 教授政治学 不戦条約とは、「国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄すること」を規定したもので、1928年にパリで調印されました。本書では、最初の世界戦争である第一次世界大戦後に成立したこの条約について、日本とフランス・アメリカとの国際関係や、軍縮・安全保障にかかわる各国の思惑、日本の外交などさまざまな視点から考察しています。 ヨーロッパの政治史、とくにマックス・ウェーバーの政治思想が私の専門分野ですが、ここ数年にわたり安達峰一郎研究プロジェクトに参加していました。安達は第一次世界大戦勃発から国際連盟発足に至るまで世界中で活躍し、常設国際司法裁判所の所長となった外交官です。当時の外務省の電報や文書を用いて彼の研究を進めるなかで、日本側から見た欧米との外交が明らかになり、今回不戦条約を中心として書籍にまとめることにしました。 今日の憲法改正にまつわる議論の源流は不戦条約にあります。不戦条約締結時に日本が置かれていた国際環境が、憲法第九条や自衛権を含む戦後日本の政治体制の基礎となっているからです。したがって、研究者や外交に関心のある人だけではなくぜひ一般の方々にも読んでいただき、現在の日本の成り立ちに対する視野を広げていただきたいです。

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