HU-plus (vol.13) 2020年度8月号
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方々もご自身や周りの方々が被害に遭われています。平和のことを話すと心が熱くなり、できることはしなければと、いつも思っています。越智:例えば、どのような取り組みですか。上田:上田宗箇流が受け継いできた伝統文化を、現代にも通ずる形で再構築し、地域のために還元していくことです。1983年日米市長及び商工会議所会頭会議が広島で行われたときに、来賓をお連れするような場所がないという話になりました。広島は中心地が原爆で被害を受けたので、それまでの文化を示すような建物が無くなってしまっていたわけです。ちょうど、明治時代初期まで250年間構えていた上田家上屋敷を、和風堂として再構築を始め一段落したところでしたので、その和風堂にお連れすることになりました。越智:平和に対して文化面からアプローチされているのですね。上田:世間の風潮としても、街の中に歴史や伝統文化が必要だという声が聞かれるようになりました。実は、広島市の重要文化財のなかで、古文書の6割強は和風堂が所有しており、美術工芸品も1,300点ぐらいあります。江戸時代250年間の古文書や工芸品をまとめて持っているのは広島城でも県立美術館でもなく、和風堂なんです。和風堂と行政がどう協働して、市民の皆さんに広島の歴史を知ってもらうか、広島の歴史が大事だと思ってもらうか。それを考えて実行することが、私の大きな仕事だと思っています。越智:広島の歴史や平和への願いを語り継ぎたいという思いは私たちも同じです。広島大学も、ピース・レクチャー・マラソンの取り組みで在京大使や各国政府代表者に講演していただくなど、平和に関する活動を行っています。越智:上田さんは、大学で学ぶべきことは何だとお考えですか。上田:大学は、修練と社会貢献の重要性に学生が気付く場であってほしいです。初心を忘れずに創意工夫をし続ける人間には花があると世阿弥が言ったように、人間は一生涯学び続ける存在です。また、そのような修練で身に付けたことを社会に還元することも大切です。広島大学は、優れたリーダー人材を国内だけでなく世界へ輩出するような大学だと思っています。越智:ありがとうございます。最後に学生にメッセージをお願いします。上田:修練や社会貢献をするにも、自分に執着しすぎず他人の声に耳を貸す柔軟な心が必要です。そのためには、自分の独自性、つまり得手不得手、特に自分の得意技を明確につかんでほしいと思います。欠点はせいぜいカバーすることぐらいしかできませんし、他人と相互に補完すればいいのです。そして、一日一日を静かな心で過ごしてください。越智:今日は貴重なお話をありがとうございました。自分らしく修練と社会貢献武家茶道・上田宗箇流のルーツ 上田宗箇流とは、戦国時代に豊臣秀吉の側近として数多くの武勲を立てた武人・上田宗箇による茶道の流派です。宗箇は千利休、次いで古田織部と親交を深めて茶の湯を学びました。1619年に浅野長晟に従って広島入りし、広島県西部を一万七千石で統治。以降、宗箇の茶の心は広島の地で代々受け継がれています。 武家茶道の特徴として、点前が直線的である点や、柄杓や帛紗などの道具の扱い方が独特な点が挙げられます。これは、茶道の所作の中に武人の立ち居振る舞いの名残が見られるためです。例えば、柄杓で湯水を汲む動作には馬上から弓矢をつがえる動作が、袱紗を右の腰につける振る舞いには刀を差していた習慣が表れています。 礼や点前の作法において、男女で異なる部分があるのも特徴的です。男性は男性らしく、女性は女性らしく振る舞うことで、それぞれの凛とした美しさが引き立ちます。て まえひしゃくふく さふく さ06Hiroshima University Magazine

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