HU-plus(vol.09)2019年度5月号
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 「趣味はなんですか?」 そう問いかけると、水沼正樹准教授は「たくさんあります」と、笑顔を見せた。「家庭菜園もその一つです。今は青いバラの栽培に挑戦していますが、なかなかうまくいきません。青くなる原因因子があって、それが酸性化すると色がつく。そこまで分かっていながら一度も青く育てられない。『なぜだろう?』って悩みながら楽しんでいます」 生まれは愛媛県松山市。生き物や植物が大好きな「好奇心旺盛な少年」だった。暇があれば昆虫やメダカを捕まえて飼育したり、植物を観察したり。その趣味は現在も続き、自宅では犬、メダカ、エビなどを飼育する。 水沼准教授の研究テーマは、小さな生物である酵母や線虫を用いたアンチエイジングだ。 「寿命を決める因子は酵母や線虫で最初に発見され、その基本的な仕組みは高等生物にまで保存されています。酵母や線虫に存在する長寿遺伝子と同じものがヒトにも存在すれば、寿命のメカニズム解明だけでなく、老化に伴う疾患の予防や治療にもつながるかもしれません」 広島大学工学部に入学後、酵母研究者の宮川都吉教授の研究室に所属した。 「3年の時に卒業論文発表会を見学しました。なかでも宮川研究室の発表は素晴らしかった。『他と何が違うんだろう?』と気になって観察すると、彼らはペーパーを読まずに研究成果をそらんじていたんです。『ここで学べば鍛えられるかもしれない』と考えました」 研究者を志すようになったのは修士2年の時。24歳の若さで英科学誌ネイチャーに論文が掲載されたのだ。 「研究者として使い物になるかもしれないという自信が芽生えました。ただ、実際は宮川教授に言われるままに研究をしていただけ。運が良かったんです」 そう謙遜するが、その後も水沼准教授の研究は高い評価を受ける。2018年度、若手科学者を対象とした日本学術振興会賞を受賞した。テーマは「遺伝的アプローチによる細胞周期制御機構の発見と寿命制御研究への展開」だ。 「パン酵母に含まれるカルシウムイオンが細胞周期や細胞の寿命にどのように関わっているのかについて明らかにしました。また線虫を対象にして、温度や餌などの環境因子が寿命延長に関わることを示しました。これらの成果は、今後、創薬や機能性食品の開発などへ発展することが期待されます」 14年から広島大学大学院に自分の研究室を持つ。研究者として活躍する一方、教育者としての立場も加わった。学生について聞くと、「みんな真面目で優秀です」とことわりながら、「競争しないんですよ……」と苦笑いする。 「例えば誰かが著しい成果を挙げると周りの学生たちは心から祝福する。他人の成功を喜ぶ気持ちは尊いのですが、悔しさも感じてほしい」 酵母研究で大切なのは「モチベーションの維持」だという。過去には、2年間かけて101個の酵母を調べたこともあった。若い学生たちのやる気を保つためには工夫が必要だ。 「例えば、休みの前に『体に良いモノを100個探しなさい』という課題を出します。誰でもマラソンは健康に良いと知っていますが、理由をきちんと説明できる人は少ない。学生には知的好奇心を満たす楽しさを知ってほしい」 「趣味が仕事になった」と笑顔で話す水沼准教授。壁にぶつかったことはないのだろうか。 「ネガティブな結果が出ても、その原因を理解すれば、ポジティブな結果を導くための大切なピースになる。だから私は研究の過程で壁を感じたことはありません。知的好奇心旺盛で自分で物事を考えられる学生を育てるとともに、自分自身もそうあり続けたいと願っています」酵母を用いてアンチエイジングを研究24歳の時、論文が英科学誌に掲載研究の過程で壁にぶつかったことはない学生時代の恩師、宮川都吉教授(右)とみずぬま・まさき/1974年、愛媛県生まれ。広島大学大学院統合生命科学研究科准教授。96年、広島大学工学部卒業、同大学院工学研究科博士課程後期修了。同大学院先端物質科学研究科助手、ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター客員研究員などを経て2011年より現職。趣味の家庭菜園では青いバラ以外にもさまざまな植物を育てている生きものが大好きな水沼准教授。愛犬はディズニー映画「わんわん物語」に登場するアメリカンコッカースパニエル。自宅に居るときには犬と遊ぶことが多いんだとか。ネイチャーに掲載された論文テーマは細胞周期とカルシウムイオンの関係性についてPROFILE14Hiroshima University Magazineなっちゃん(オス)愛犬What do you like?取材・文/アエラムック編集部 竹内 良介

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