HU-plus(vol.09)2019年度5月号
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大学院教育学研究科では野村さん(広島東洋カープ前監督)の指導を担当。 広島東洋カープが強い理由の一つはコーチングの成功にあるのではないかと私は考えています。コーチングとは、相手との対話を通して自発的な行動を促し、目標を達成させる技術。例えばスポーツでは、チームを強化し、試合に勝利することが最終的な目標です。強いチームをつくる一番の秘訣は、「強くなりたい」という共通の目的意識を全員が持つこと。そのために、コーチングでは選手それぞれの状況や性格をきちんと把握して、やる気が出るよう上手に動機付けをします。選手にどんな言葉を掛けるのか。いつどんな練習を課すのか。絶対的な正解はなく、一人一人に合わせた指導が大切です。 現在のカープには「日本一になる」という共通の目的意識がはっきりとあり、それに向けて選手一人一人が努力し、互いに刺激し合っていると感じます。何度かカープ関係者にお話を伺って、その練習の量や質の高さに驚きました。若手選手は全体練習の2時間前に自主的にトレーニングを始め、単なる筋トレではなく野球に合った体づくりに取り組んでいると言います。今はどんなスポーツにおいても、才能だけで勝ち上がれる時代ではありません。目的意識をしっかりと持ち、限られた時間の中でいかに質の高い練習ができるかがトップアスリートへのカギを握ります。自ら「強くなりたい」、「勝ちたい」という思いを持っていれば、自然と練習での吸収力も高くなります。 数年前までBクラスに低迷していたカープがこんなにも強くなれたのは、小さな成功体験をそのままで終わらせるのではなく、コーチングによってきちんと振り返ってチームの力にしていったからでもあります。たとえ偶然つかんだ勝利だとしても、しっかり分析して次へ生かせば少しずつ強くなることができます。同じ成功体験を後輩にも味わってもらいたいという先輩の思いも、良い循環につながったのではないでしょうか。 また、地元の熱心な応援も、外的な動機付けとしてカープの強さを支えています。ファンの期待に応えたいという思いが練習や試合へのやる気につながっているのです。 スキル向上を目指す人に対して、助言や課題を与えてモチベーションをコントロールするコーチングには、教育に通じる側面があります。野球の練習であっても、算数の授業であっても、相手のことを考えてより良い方向に導くという根本的な部分は変わりません。コーチングというとスポーツばかりを連想しがちですが、実は学校はもちろん、家庭や職場などいろいろな場面での応用が可能なのです。身近な疑問を、異なる専門分野の研究者視点で解説!今回はセ・リーグ3連覇を果たした広島東洋カープの強さのヒミツに迫ります。学問の探求教授が答える、社会の“?”成功体験をチームの力にするコーチング術大学院教育学研究科出口 達也 教授大学院教育学研究科で野村謙二郎氏を指導。過去に柔道の谷亮子選手のコーチを務める。専門分野 : 柔道、コーチング、運動学ゼミの様子。教員の道も考えたことのある野村さんからのアドバイスは、学生も教員も勉強になりました。「日本一になる」を共通の目的意識にファンの熱い声援に応える思いがやる気に学校、家庭、職場でも応用できる「教育学」から12Hiroshima University Magazine
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