HU-plus(vol.09)2019年度5月号
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けがを防ぎ、選手のパフォーマンスを高める大学院医系科学研究科広島大学病院 スポーツ医科学センター長安達 伸生 教授2019年1月の新入団選手のフィジカルチェック。 広島東洋カープの強さの理由の一つは医科学のサポートと言えるのではないでしょうか。マツダスタジアムでの試合は、始まる前から必ず我々チームドクターは球場に入ります。試合前は選手の調子のチェック。試合中は球場で待機し、デッドボールなどでのけがの対処。必要に応じて、広島大学病院へ搬送することもあります。試合後は体調の変化を訴える選手の診察をします。マツダスタジアムのトレーナールームには超音波診断装置が設置されているので、その場で初期診断ができます。 小さな不安にきっちり対処していくことで、早期治療が可能になります。例えば、膝に少し痛みがあり、活躍しきれていなかった投手は、診察の結果、初期の軟骨損傷と分かりました。すぐに手術をし、翌年には一軍に。引退を考えていた選手が試合でアウトを取った時には本当に感動しました。手術から1年以内でビールかけにも参加できたのですから。チームドクターだからこそ、早い段階で治療に介入でき、選手の運命を変えられたと自負しています。広島大学病院で手術し、スポーツ医科学センターの理学療法士がリハビリを担当するなど、連携して治療できる環境で、より一層の早期回復ができたと思います。 カープの選手を含め、プロアスリートからは、短期間で高いパフォーマンスまでの回復を要求されます。それが可能な理由は三つあります。まず、基礎体力や筋力、柔軟性、体力がある。次にトレーナーがついているので、リハビリを安全に行える(実際、我々はカープのトレーナーとはしっかりとコミュニケーションをとりながら、リハビリを実施しています)。そして、何よりも本人のモチベーションが高い。これらの条件が揃っているので思い切った治療ができるのです。カープの選手の治療に深く関与し、その過程のエビデンスを蓄積することは、野球選手だけでなく、一般の患者さんの治療にも役立っています。 2014年から毎年、カープの新入団選手のフィジカルチェックを実施しています。医師や理学療法士の指導でジャンプ力や脚の筋力、全身持久力などを測定し、各選手に合ったアドバイスをしています。まずは、体の状態を知るフィジカルチェックの必要性を理解してもらうことから始めます。また、けがをしやすい姿勢や動作を防ぐトレーニングプログラムを導入するなど、けがをしにくい体づくりのための指導も行っています。 カープのトレーナーの話では、昔は試合の後マッサージを受けている選手が多かったのが、今は試合後にもエクササイズを行い、ねじれを正すなど、体のリセットをする選手が増えてきているそうです。体を良好な状態に戻して次の試合に挑むのは、プロである限り当然のこと。そのような意識と姿勢がけがを防ぎ、チーム全体のパフォーマンスを高めていると思います。それもカープが強くなってきている理由の一つかもしれないですね。 治療するだけでなく予防つまり、けがをしない体をつくるなど、医科学がスポーツに果たす役割はこれからますます広がっていくと思っています。強さの理由は何だろう?は、だから強い!広島東洋カープ「医科学」から専門分野 : 整形外科学広島東洋カープ、サンフレッチェ広島のチームドクターを務める。(一般社団法人日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会理事長)。カープの選手に寄り添い、広島大学病院全体でサポート一般医療にも役立つプロアスリートの治療正しい知識と高い意識で故障しない体をつくる安達教授ももちろんカープファンです。11

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