HU-plus(Vol.8)2018年12月号
6/32

高岡氏は広島大学が2017年度から実施の特別講義「世界に羽ばたく。教養の力」で講演、主に教育学部の学生ら約440人が聴講した(上)2018年夏に広島大学中央図書館にオープンしたlalalaCafé。勉強などの合間に気軽に利用できる。営業時間は、授業期間中の平日20:15~23:30まで(左)「キットカット」受験生応援キャンペーンポスター高岡:入社して最初の3年間は千葉で営業をしていたので必要なかったのですが、本社の上司はみな外国人。英語は必須だったので、マンツーマンの英会話学校に行きました。当時初任給が13万7,000円くらいだったと思うのですけど、1回の授業料が1時間5,000円。大変だったので先生に「4,000円で教えてもらえないか」と交渉しました。そうしたら何人かとシェアした家に住んでいた先生が「部屋代をシェアしてくれたら、いつでも英語を教えてあげる」と言ってくれたので、そこに転がり込んで英語を勉強しました。越智:そうですか。高岡:千葉で3年間営業してから本社に行きました。本社で2、3年仕事をして初めて海外赴任の権利を与えられるのですが、それまでは英語は全然ダメでした。日本にいると使いません。入社5年後にニューヨークのネスレに1年間行きましたが、そこそこしゃべれると思って行ったのですけど、全く分からなかったです。越智:どのくらいで分かるようになりましたか。高岡:3カ月です。ヒアリングが難しかったです。越智:会社では主にどんな仕事をされてきたのでしょうか。高岡:3年間は営業で、スーパーマーケットを回っていました。ネスレはマーケティングの会社なので、ブランドの担当になってブランドのマーケティング、例えばテレビ広告を作るとかそういう仕事だけではなくて、生産から物流を含めた販売まで全部、商品の売り上げも利益も全てを管理します。マネジメントや経理も勉強しなくてはいけないので、そういう意味では良かったと思います。越智:若くして上のポジションを任せてもらえましたか。高岡:30歳の時、最年少で部長になりました。越智:大きな苦労はなかったのですか。高岡:苦労の連続でしたが、『ネスカフェ』はすでにすごいブランドで、飛ぶように売れていました。でも新しい製品を出してうまくいったものは皆無でした。成功するということは本当に難しいこと。だからこそ「成功するために何をしなければならないか」をずっと考えていました。越智:実行されたのはいつ頃ですか。高岡:40歳からですね。ネスレがイギリスのロントリー・マッキントッシュを買収して、キットカットがネスレの商品になりました。買収を機に合弁会社を作って、そこでキットカットのマーケティングを始めました。世界的な戦略を日本で実行してもうまくいかなかったので、日本だけの戦略を誰にも相談もしないで実行することにしたのです。小さいレベルでテストして、うまくいったら本社に報告しようと。それでうまくいったのが期間限定商品や「受験生応援キャンペーン」です。越智:「きっと勝つ」ですね。高岡:はい。もちろんこれは日本でしか通用しません。越智:売り上げはどのくらい伸びたのですか。高岡:次の10年で5倍に、利益は10倍くらいになりました。みんなが反対することをどうリードするか越智:現在、ネスレ日本の代表取締役社長兼CEOとして、リーダーに求められるものは何だと思われますか。高岡:「勝ち方を知っている」ことですね。勝てないといくら人格的に優れていてもチームは付いてきてくれません。リーダーは「勝ち方を知っている」ことが一番必要な資質だと思います。越智:大学に求められているのはどういうことでしょうか。高岡:日本の教育は戦後変わったと言いながら、そんなに大きくは変わってないというのが私の見立てです。労働コストが安かった頃、真面目に一生懸命働けばいいものを安く作れて世界で売れる、という時代がありました。その頃はみんなが同じベクトルを向いて、同じことを考えて、同じ方向に行くという、教育においては非常にいい時代でした。ところが先進国の仲間入りをし、バブルがはじけてからは人と違うことを考えてやらなくてはいけなくなってきた。それが今の教育に一番欠けている部分ではないかと私は思います。専門的な、高等な知識をただ教えるだけではなく、学生に考えさせるという部分が、今の大学に求められていると思います。越智:では、日本はどういうふうに変わらないといけないとお考えですか。高岡:日本人の持っている能力は、世界的に見ても非常に高いし、資質もあると思います。イノベーションとよく言われますが、その意味をちゃんと答えられる人がいないのが現状だと思います。いまだに技術革新という訳をされるくらい間違った考えのままです。私は大きな時代の流れの中では産業革命が非常に大きなインパクトを与えると思います。20世紀は長い間、電気や石油などの第二次産業革命の新しいエネルギーで問題を解決してきましたが、教育も一緒だと思うのです。インターネットやAIという第三次、四次の産業革命が起こった時、新しいものを使って世の中をどう変えていくのか、大学こそが真っ先にそれに取り組んでほ005

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る