HU-plus(Vol.8)2018年12月号
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「みんないつも全力で演奏しています」と後藤さん。演奏会では、奏者が汗を飛び散らせながら演奏する様子も目の当たりにできるそうなので、ぜひライブで楽しみたい定期演奏会など大きなプログラムでも、リハーサルはわずか3日間。演奏者各自がそれぞれで練習を重ねた上で、指揮者の指示に従いながらオーケストラとして曲を仕上げていく。 後藤絢子さんは、中四国を代表するプロオーケストラである広島交響楽団(以下、広響)のヴァイオリニストとして15年のキャリアを積み重ねてきました。「広響は、向上心が強いオーケストラ」。そう話す後藤さん自身も「とにかく練習」というスタンスは子どもの頃から変わりません。ひどく体調がすぐれない日か楽器が故障している時以外はヴァイオリンに触れない日はなく、1日8~9時間練習する日もあるそうです。 家族よりも長い時間を共に過ごす広響のメンバーとは「言葉を交わさなくても音を介してコミュニケーションが取れる」と話す後藤さん。「音を聞けば『今日はすごく前向きだな』とか『調子が良くないのかな』と分かるし、メンバーの素晴らしい音を聴くと、『自分も頑張ろう』という気持ちになります」 お姉さんの影響でヴァイオリンを始め、ずっと続けてきた後藤さん。ヴァイオリニストになることは長年の夢だったのではないかと思いきや、職業として意識し始めたのは高校生の頃。お父さまが重い病にかかり、お母さまに「一人で食べていけるようになって」と言われたことがきっかけでした。ヴァイオリンを仕事にすると考えた時に「教えていくのかな」と漠然と考えていたそうです。大学時代、音楽教室で教える傍ら、教員免許も取得した後藤さんは、卒業後も音楽教室の講師を勤めていました。 そんな後藤さんに「広響でヴァイオリニストのオーディションがあるので受けてみませんか」と連絡が入ったのは卒業して2年がたった頃。大学時代に指導していただいた広響の方からの勧めでした。広響では欠員が出た時以外は募集をしないため「5、6回落ちても諦めてはいけない」と言われオーディションに臨んだ後藤さん。見事2度目で合格し、後藤さんは演奏家としてのキャリアをスタートさせたのです。 オーケストラでは指揮者の指示に従って、さまざまな奏者が奏でる楽器が一体となって曲を作っていきます。「いろいろな楽器と一緒に演奏することを、入団後に一から学びました」と話す後藤さんにとって広響は、職場でもあり、学びの場でもあるのです。 どんなに体調が悪い時でも演奏しなければいけない、代わりが利かないところは演奏家の大変なところだと感じながらも「自分も今まで聴いたことすらなかった曲を演奏し、観客の皆さんに提供できることをやりがいに感じます」と後藤さん。 音楽大学ではなく広島大学教育学部に進学した理由は「総合大学という環境で、人に教えることなど、音楽以外のことも学びたかったから」。音楽も一般教養も学び、他学部の学生と交流を持つことで視野を広げることができたそうです。 後輩へのメッセージを伺うと「勉強も、そして遊びもしっかり楽しんでほしい。私も本当に楽しい学生時代を過ごしました」と笑って答えた後藤さん。その中で演奏家を目指す学生には「お金をいただく以上、責任が伴うし失敗はできません。プロの演奏家が何をしているか、どのような心構えでいるか、興味を持ってほしいし、それを考えることで日々の行動が変わってくると思います」とエールを送ってくださいました。024
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