HU-plus(Vol.8)2018年12月号
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山本研究室は数理分子生命理学専攻に所属し、学生の専門は生物、化学、数学など多彩。人工DNA切断酵素を基盤とするゲノム編集技術 短い歴史の中で、ゲノム編集は著しい技術発展を遂げている。1996年のZFN開発から2010年の第二世代のTALENに続き、2012年に第三世代のゲノム編集ツールとして「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)」が登場。その開発者である欧米の科学者たちは、ノーベル賞候補の呼び声も高い。 CRISPR-Cas9は、従来のツールに比べて作りやすく、短時間でゲノム編集ができるだけでなく、標的遺伝子の変更や複数遺伝子の改変も容易だ。ヒトやマウスといった哺乳類のみならず、細菌、寄生生物など、多様な細胞や生物のゲノム編集や修正に急速に利用が広がっている。 2016年には日本ゲノム編集学会が設立され、山本教授が会長を務める。 さらに同年、科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」(通称OPERA)にもゲノム編集が採択された。OPERAは、産業界との協力の下、大学などが持つ知的資産をフルに活用し、本格的な産学共同研究を通して、広く価値を創造するオープンイノベーションを加速させることを目指し、山本教授は統括役となっている。 東京工業大学、大阪大学、九州大学など9つの研究機関に、企業も23社が参画している。中でも地元のマツダは、地球環境保護の観点から、微細藻類から自動車などの燃料となる再生可能なバイオ液体燃料の生産を目指している。植物学者である大学院理学研究科の坂本敦教授が、ゲノム編集技術による藻類の高性能化に取り組んでいる。 山本教授は「OPERAにおいて、日本特有の工夫を生かした技術を開発して、応用研究面で独自の成果を出していきたい」と抱負を語る。 OPERAとも連動して、新産業創出を担うゲノム編集の人材育成も強化されることになった。文部科学省の「卓越大学院プログラム」(2018年度)に、広島大学の「ゲノム編集先端人材育成プログラム」が採択されたのだ。 これは5年一貫のライフサイエンスコースと4年一貫のメディカルコースからなる博士課程学位プログラムで、あらゆるセクターを牽引する卓越した博士人材の養成とともに、共同研究が持続的に展開される拠点を創出する。具体的には、ゲノム編集について、産業技術開発者、創薬・治療研究者、ベンチャー起業家、基礎技術開発者を育成して、先端研究をいち早く社会実装することを目指している。 山本教授をプログラム・コーディネーターに、京都大学iPS細胞研究所、徳島大学、ハーバード大学、マツダとも連携する。「ゲノム編集技術を縦横に使いこなせる人間を育て、産業利用を着実に前進させたい」と山本教授。 山本教授自身も研究者として、オリジナルツールに効率化などの改変を加えた「プラチナTALEN」などのゲノム編集ツールを開発している。 これらは広島大学が特許を取得した後、基礎研究目的であれば、米国のNPOを通じて全世界に実費で提供されている。まさにオープンイノベーションだが、それを利用した結果として得られるデータを集約することで、次の開発につなげられる。もし、基礎研究で有用性が認められた上、応用面での利用が進むようになれば、特許使用料が還流される仕組みもある。 ゲノム編集技術の応用面での巻き返しを図り、広島大学を拠点とする挑戦が続く。 取材・文/日経サイエンスせっさたくま人工DNA切断酵素により細胞内でDNAをすると、修復時に目的の遺伝子の改変(ノックアウトやノックイン)が可能になり、任意の塩基配列の改変ができる。遺伝子ノックアウトは自然突然変異と同じレベルの変異を導入した新品種の作出技術として期待遺伝子ノックアウト(KO)遺伝子ノックイン(KI)012
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