HU-plus(Vol.8)2018年12月号
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月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者に分かりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2018年9月に創刊47年を迎えました。SPECIAL REPORT世界のトップ100大学に向けて挑戦する広島大学の取り組みをシリーズで紹介し、将来性を探っていきます。産業応用に向けた技術開発と人づくりへの貢献国内でいち早くゲノム編集に着目した山本教授ゲノム編集の大きな可能性 遺伝子組み換え技術に代わる遺伝子改変技術として「ゲノム編集」技術が注目されている。広島大学では、大学院理学研究科の山本卓教授が、国内でいち早くこの技術に着目し、2014年に「ゲノム編集研究拠点」を設置。産業応用に向けた技術開発や人づくりを目指し、新たなプロジェクトが始動している。 20世紀の終わりに登場したゲノム編集技術は、狙った遺伝子を的確に切り出し、つなげることができる革命的な遺伝子改変技術である。DNAの塩基配列の中から特定の箇所に狙いを定めて操作でき、狙った遺伝子の破壊(ノックアウト)、あるいは挿入(ノックイン)ができる。 1970年代から使われている遺伝子組み換え技術と比べると、精度の高さに加えて、応用範囲が広いことも大きな特徴だ。医療分野において、遺伝子治療や創薬などへの応用は最も期待されており、疾患を再現するモデル細胞や動物の作製もできるようになる。 それ以外にも、基礎的な生命現象の解明、農水畜産物の品種改良やバイオ燃料の開発など、バイオテクノロジーの有力なツールにもなり得るとされる。2003年にヒトゲノム全配列解読も終了し、ゲノム編集は全世界から熱い注目を集め、世界中で基礎と応用の両面から研究が進められている。 数理分子生命理学分野に所属し、発生生物学を専門とする山本教授は10年ほど前、ゲノム編集に出合った。モデル生物であるウニの卵の分化の過程で、細胞内の遺伝子の発現量を定量的に捉えようとしていた時のこと。ウニの遺伝子に緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を組み込み、GFPの蛍光により、遺伝子発現を追跡しようと考えた。 GFP遺伝子を確実に目的の場所に組み込む方法を探す中で、ハサミの役割をする酵素で切断して組み入れるというゲノム編集技術に遭遇。文献を頼りに、この人工制限酵素の作製に挑み、試行錯誤の上、2年がかりで、遺伝子の発現量に応じてGFPを光らせることに成功した。 当時用いていたのは、ZFNという第一世代のゲノム編集技術だったが、成果を論文にすると、全国から問い合わせが寄せられるようになった。同時期に、京都大学では哺乳類のラットで、農業・食品産業技術総合研究機構(つくば市)では植物について、ゲノム編集技術による遺伝子改変に成功していた。これらの機関と勉強会を始め、2012年に「ゲノム編集コンソーシアム」を立ち上げ、国内での技術の普及に取り組み始めた。 山本教授は「ゲノム編集の基礎研究はこれからの生命科学研究において不可欠の技術。日本は桁違いの予算を付けた米国に後れを取っただけに、旗振り役を果たしたかった」と語る。たいしょう生命現象の解明などの基礎研究から、疾患モデル細胞や動物の作製、創薬や遺伝子治療などの医療分野、農水畜産物の品種改良、バイオ燃料の開発まで応用研究の範囲は広く、生命科学に欠かせない技術である。011
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