HU-plus(Vol.7)2018年8月号
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たくさんもらっているとか、まるでもらっていないとか、経営者としての実力もみんな評価されるわけでしょう。これだけは絶対譲りたくなかったですね。越智:Jリーグのチェアマンを退任後、バスケットボール界のリーグ一本化で大なたを振るわれました。川淵:2014年4月、バスケットボール界の関係者から「分裂している二つのリーグを一つにしてほしい」と相談を受けたんです。半年以内に統合しないと、リオのオリンピック予選にも出さないと国際バスケットボール連盟(FIBA)が言ってきた。「こんな大改革ができるのは俺しかいないな」と僕は思ったんですよ。トップダウンでやらない限り大改革はできないから。 僕はそういう経験が豊富だし、バスケットボールの置かれている現状をつぶさに調査分析したんです。その結果、例えば収容人員5,000人程度のアリーナで、ホームゲームの8割程度を実施できれば絶対成功するという確信がありました。越智:それでうまくいったというのがまた素晴らしいですね。先見の明と言いますか。川淵:反発は覚悟の上で、初めにガーンと上から目線でいきましたよ。Jリーグの経験が生きていましたから。過去の経験から言って、一番大事な観客動員がちゃんとできないとプロとして成功するわけがない。そこで5,000人のアリーナ、しかも8割使えるということを打ち出したわけです。バスケットボール界の人の多くは「そんなの、できるわけない」と思っていたけれど、実際にできたのですよ。越智:昨年まで首都大学東京の理事長も務められました。今の大学をどう見られていますか。川淵:理事長になって「大学に入学するのは難しいけど、出るのは易しいというのはおかしいのではないか。アメリカのように、日ごろの教育をいかにシビアにするかということでやるべきではないか」と、いきなり学長に言った覚えがあります。すると学長は「厳しくしたいけれど、就職の問題などがあって入学希望者が減るから」という返事でした。さきほどの1万時間の話ではないが、勉強に没頭する時間こそが今、大学に一番求められていると思うので、それがちゃんとできる環境をつくってあげることが一番大事だと思います。越智:では、学生は大学でどんなことを学んだらいいとお考えですか。大学ですから学問を勉強しないといけませんが、みんながみんなステレオタイプで学問だけというのではなくてもいいと思っているのですが。川淵:僕のサッカーの場合はちょっと特別かもしれませんが、大学の4年間は自分が今後どういう方向に進むのかを探し求める期間ではないかと思います。といっても、これに決めたら一生死ぬまで変わらないという必要はまるでなくて、しょっちゅう変わったっていいわけです。 また、大学時代の友達は一生の友達になる可能性がすごく高いので、人との付き合いを大事にしてほしいですね。漫然とアルバイトしながらそこそこ勉強しているだけでは、自分の将来にとってプラスになる何かを見つけられない。自分が興味を持って突っ込んでやりたいものを探し出し、それをやってみることは学生の特権です。そういう「無駄な時間」を過ごすのも、いいのではないかなと思いますね。越智:分かりました。最後に若者たちへのメッセージをお願いします。川淵:何かのめり込むものがあったほうがいい。芸術、スポーツ、勉強、もうありとあらゆる分野の中で自分はこれが好きだというものをどう見つけるかですね。興味や関心が向くものに少しちょっかいを出してみるんです。それで面白くなければ次に行けばいいのだから。 若いうちは「これだ」というのを決めるのはなかなか難しいと思いますが「何のために自分は生きているのか」「自分はなぜ生まれてきたのか」という根源的な問いにつながるものを探していく中で、初めて人間として成長できたと言えるのではないかと思うんです。越智:私も大学はHOW(ハウ)ではなくてWHY(ホワイ)を考えるところであるべきだと考えています。答えのないことをいろいろ考える期間を与えられているのが大学生ではないかと思いますし、それがその人の人間力向上につながると思っています。川淵:何か全部答えがあって、それも一つしかないかのように思い込むのは、日本人の国民性ですよ。それをすぐ変えるのは難しいけれど、変えていかないと世界に付いていけないと思いますね。 ところで、広島大学としては、これからどのように伸びていくべきだとお考えですか。 越智:基本的には二つの役割があると思っています。一つは真理の探究の場であり、誰かに何か言われたりせずに自由に学問ができること。もう一つは社会の要請に応える部分もないといけないということです。産業界や経済界の有識者から「教育はこうしろ、ああしろ」と言われる前に、主体的に考えることだと思います。産業界や経済界の意見も拝聴しながら、自らがオートノミー(自律的)に変わっていくのがあるべき姿ではないか、要はバランスだろうと思うのです。 本日は貴重なお話をありがとうございました。 2018年5月17日 広島大学で対談大学時代は、自分がどういう方向に進むのかを探し求める時間第1特集◎[対談]川淵三郎氏╳越智光夫第1特集◎[対談]川淵三郎氏╳越智光夫006

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