HU-plus(Vol.7)2018年8月号
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おち・みつお●1952年愛媛県生まれ。1977年広島大学医学部卒業。整形外科医。2004年に内閣府の日本学術会議会長賞、2010年に文部科学大臣表彰科学技術賞、2015年に紫綬褒章を受章。2007年~2011年、広島大学病院長を務める。2015年、広島大学学長に就任。監督になる早稲田OBの川本泰三さんがいました。川本さんが僕のプレーを見て「あれ、結構面白いんじゃないの」と。「早稲田でやらせれば」という話になって、推薦してくれたんです。 浪人中、大学には行きたいと思っていたけども、何にもない状況の中で、サッカー好きだけでやっていた。いわばプータローですよ。でも81年間の人生を振り返ってみて、この2年間があったからこそ今があると確信しています。一つのことを一生懸命やったことが、結果的には今の道につながったと言える。本当に不思議なのですよ。越智:良い大学に入って良い職場に就職することよりも、何かやりたいことを、好きなことをやっている方がいいのではないか、ということですか。川淵:この年になって言えることですけど、高校時代に勉強してそれなりの大学に入ったとしても、老いさらばえて死んでいるかも分からない。今のように、スポーツ界のためにいろいろ働けるような境遇ではなかったはずです。「あいつ、ばかじゃないか。何を考えて毎日サッカーやっているんだ」という2年間が、今の僕を形作ったことは間違いないですね。 経済学者の中谷巌先生が「何事も一つのことに死に物狂いで1万時間没頭すれば、必ずやその分野でひとかどの人物になれる」とおっしゃっています。スポーツでも勉強でも、好きなことにとことん没頭する。僕自身「浪人してサッカーばかりやって、何考えているんだ」とか「いい加減にせいよ」などと、誰からも言われたことはありません。両親も、何も言わなかったですね。越智:マルコム・グラッドウェルという人が、やはり「1万時間セオリー」を提唱しています。有名なピアニストや有名なバイオリニストを調べて、世界的な人はみんな1万時間以上の練習を重ねていると。1万時間やっても、みんな世界的な人になれないところがちょっと残念なところなのですけど、少なくとも1万時間はやり続けないとダメだということを言っているのです。川淵:結局、好きだからやれるということがあると思いますね、嫌なものはなかなか1万時間も続かないから。そういうものをどういうふうに自分自身で見つけていくか。僕は運よくサッカーに巡り合えたけれど、これに巡り合えてなかったら、大した人生を送ってないと思います。越智:早稲田大学では日本代表の一員としてヨーロッパ遠征に参加されるなど、大いに活躍されました。その後、実業団サッカーの名門、古河電工に入社されたわけですが、サッカーと仕事の両立は大変だったでしょうね。川淵:100人くらいいた同期は、みんな一流大学卒のそれも優秀な連中ばかり。「こんなのに負けてたまるか」と思いましたよ。学校の勉強とかそんなことより、頑張りようによって会社の中で偉くなれるんだって。 だからサッカーの練習が終わった後、サッカーの連中とつるむようなことは全くありませんでした。むしろ、他の連中といろいろ話をしたり、交流の場を持ったりしましたよ。「サッカーだけ」というふうな言われ方をされたくなかったんです。に生きているのか越智光夫越智光夫広島大学 学長広島大学 学長004

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