HU-plus(Vol.7)2018年8月号
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マイノリティの人権大学院社会科学研究科横藤田 誠 教授 2015年4月、我が国で「機能性表示食品制度」が始まりました。これは、安全性と有効性の科学的根拠(エビデンス)を明らかにすれば、各企業の責任において、食品の持つ機能性を商品に表示して販売できるという制度です。 以前から、許可制で機能性を表示できる特定保健用食品(トクホ)というものがありますが、許可を得るために必要なヒト試験にはコストがかかり、表示できる機能性の表現は限られている上、審査に時間がかかるなど、企業にとってなかなかハードルが高いものです。そして、いわゆる健康食品については「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(旧薬事法)の縛りにより、医薬品のような効果効能を表示することができません。誤った情報によって消費者が不利益を被らないために大切な規制ですが、反面、どんなに良い物でもトクホにならない限り、消費者はその機能性を知るすべがありませんでした。 そこに、機能性表示食品の登場です。トクホと異なる点は、許可制ではなく届出制であること、システマティックレビュー(SR)という方法で、既に発表されているヒト試験の研究論文を集め、総合的に機能性を評価することが可能であること、そして、表示できる機能性の表現の範囲が広いことなどです。機能性表示食品の届出件数は着実に増え、制度開始からわずか3年で既にトクホの許可数を抜いています。これからますます伸びていくことでしょう。消費者はたくさんの選択肢の中から、表示された機能性を見て自分に必要なものを選ぶことができます。消費者庁のHPでさらに詳しく情報を見ることもできます。自分の健康のために、自分の目で正しい情報を確かめて機能性食品を選ぶ時代が来たのです。 機能性表示食品とトクホに共通する最重要項目はエビデンスの確保ですが、それにはヒト試験での検証が不可欠です。広島大学の未病・予防医学共同研究講座※では、2007年4月からさまざまな機能性表示食品の有効性・安全性を評価するヒト試験を実施しています。手間と費用がかかるヒト試験ですが、正しい情報の発信と健康長寿の実現のために大切な活動だと信じていますので、引き続き、積極的に取り組みます。 ※活動開始当時の名称は異なる機能性食品を自分で選べる時代の到来大学院医歯薬保健学研究科東川史子特任准教授 2018年1月、旧優生保護法による強制不妊手術を受けた60代の女性が、初めて国に謝罪と補償を求め仙台地裁に提訴しました。この法律がなくなってすでに20年以上が経過しています。明らかに人権が侵害されているにもかかわらず、問題視すらされない事例は残念ながら他にもたくさんあります。 高校の授業で憲法の「基本的人権」に触れたとき、世界が少し変わって見えたような気がしました。生後7カ月でポリオに罹患し両足に障害を負った私は、5歳からの10年間、肢体不自由児施設などで過ごした後、高校で初めて周囲が皆健常者という、私にとっては異常な環境を経験し、強い劣等感に苦しめられていました。そんなときに、人は生まれながら不可侵の権利を有する、という人権の理念に触れたのです。それは私にとって、苦痛に満ちた現実を超える、等身大ではない「世界」との出合いでした。しかし、大学で法学・憲法を学んで分かったのは、人権理念は多数派の人間が作ったものという当たり前の事実です。だからこそ、マイノリティがそれを享受するには多大な困難が伴うのです。 例えば、具体的事実や能力が同じならば取り扱いも同じにすべしとする平等原則は、健常者と定義上異なる障害者に異なる処遇がなされることを不合理とは見なしません。マイノリティの人権は「理論」の上では保障されていても「現実」には重要視されていなかったのです。 近年、この現実に風穴を開ける注目すべき動きが見られます。例えば、障害者権利条約(2006年)は障害者に対する見方を劇的に変えています。①障害者に対する固定観念や偏見との闘い②障害者の自律と自立の尊重③障害者に平等な権利行使・社会参加を保障するための「合理的配慮」提供の義務付け。この動向が実を結ぶには、マイノリティ当事者の努力だけでなく、多様な属性を持つ人々の個人としての尊厳を社会がいかに受け入れるかにかかっています。人権理論自体も問われているのです。りかん016

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