HU-plus(Vol.6)2018年4月号
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  大学病院で外科医や呉市安浦町で地域医療などを経験した後、東京の小金井市にある桜町病院聖ヨハネホスピスで緩和ケア医師として働いている大井裕子さん。「外科を選んだ理由は、自分の専門領域だけを診て、後は他の先生が担当する…というのではなく、患者さんを最初から最後まで診たいと常々思っていたからです」。安浦町国保診療所で働いていた時に、山崎章郎さんの著書『病院で死ぬということ』を再び読む機会があり、ホスピスで医師としての初志を貫きたいという思いが再び燃え上がりました。「本当に人の生を最後まで診ることになった」と振り返ります。2014年からは、広島県廿日市市で市民と一緒に、「より良い看取り」を考える活動にも注力されています。 「ホスピスの患者さんはただ死を待っているのではありません。皆さんが生きたいと思っているし、決して諦めてはいない」。大井さんが患者さんのケアをするにあたって、最も尊重されているのは「患者さん自身の思い」です。その上で、ご家族も納得できるよう慎重に会話を重ねます。最後まで話し合うテーマは“食べること”だそうです。「誰もが人生の終わりには食べられなくなっていきます。その時に頑張って食べる患者さん、食べてほしいと応援するご家族がそこにいます。どうしたら負担なく食べられるのか、医学の常識からすると食べられない状態でも、どうしたら食を楽しめるのか。時には本人の思いと家族の思いがずれてしまう。そこで折り合いがつくように、一緒に話し合うのが私の役割です」と大井さん。医療者目線になりすぎず、患者さんと家族両方の思いを大切にすることを心掛けています。 「患者さんが自分の希望に沿って最期の時間を過ごすことが、ご家族にとってもかけがえのない思い出になり、その後生きていく支えになるのです」 ホスピスで仕事をする中で、「大事なことは先延ばしにしないこと」をより強く意識するようになったと話されます。多忙な業務の合間を縫って出版した『<暮らしの中の看取り>準備講座』もその一つ。廿日市市での活動をまとめた一冊で、この本を出さないと死ぬ時に絶対後悔すると思ったそうです。本の内容は、ホスピスで大切にしている患者さんやご家族との関わり方、自宅や地域でも実践できる看取りに向けた関わり方です。 2025年までに年間死者数が30万人増えると予想されている中「みんなが希望する場所で最期を迎えるためには、苦しまずに過ごすことは大前提であり、そのためにサポートしていくのが医師や看護師です」。ホスピスでは医療機器を使いません。患者さんの表情や見た目でさまざまなことを予測しケアするので、地域で応用できることがたくさんあるそうです。「今後、地域で亡くなる人を支える医療従事者は不足します。一般の人ができることはたくさんあります。そのことをもっと知っていれば、自宅や地域でも十分安心して過ごすことができるのです」 最後に、広大生へメッセージをいただきました。「学生時代に学んだことは決して忘れません。好きなことを掘り下げてやってみましょう」。これから医師を目指す後輩には「現場では聴くことが大切です。ただ聞くのではなく、苦しんでいる人を理解し、受け止めようとする聴き方です。トレーニングである程度はできるようになるので、ぜひチャンスを見つけて学んでください」2014年から、大井さんが広島県廿日市市で始めた「暮らしの中の看取り準備講座」で、一緒に学んでいる市民の皆さん。講座では、毎回市民と専門職が一緒になってグループワークを行っている(上)。2017年10月には、廿日市ゆめタウンで第1回介護レストランが開かれ、その実行委員たちと(下)。そして、それらの活動内容を基に構成された大井さんの著書『暮らしの中の看取り 準備講座』(右)外科から緩和ケアへ外科から緩和ケアへ「生きたい、諦めない」に寄り添う「生きたい、諦めない」に寄り添う苦しみを理解し、受け止める苦しみを理解し、受け止めるインタビュー後に学生とホスピス内で024

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