HU-plus(Vol.6)2018年4月号
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日本三大銘醸地として知られる東広島市西条で、約150年にわたり日本酒を造り続けている酒造メーカー『賀茂鶴酒造』。山新良彦さんは5年前、広大で学んだ生物学の知識や微生物の研究を生かせる仕事に就きたいと、この会社へ入社しました。 最初の1年間は、本社蔵で手造りの酒が造られるまでのプロセスや、賀茂鶴酒造ならではのこだわりについて学んだそうです。 3年目を過ぎた頃、原酒・調合課へ配属。酒は造られた後にタンクへ貯蔵され、必要な時に出して使われます。それが原酒。しかし、このまま瓶詰めするわけではなく、調合やろ過などさまざまな工程を経て製品になります。 「ひと口に賀茂鶴の酒といっても、いろいろな酒質のものがあり、原酒においても香味のタイプや熟成度が違います。しかし、どの酒も製品になる時には、お客さまが認識されている味や香りに沿った、バランスの良い酒でなければならないことは共通しています」。原酒・調合課では、貯蔵状況の違う二つ以上の酒を混ぜ合わせるなど、利き酒をしながら、酒ごとの特徴に合う味に近づけていく『調合』という作業をしています。調合以降に酒の味を積極的に変える工程はほぼないので、いわば酒の味を決める最後のとりでとしての役割を担っているそうです。 山新さんは、仕事で毎日行っている『利き酒』の経験と感覚を生かし、3年連続で『広島県きき酒競技会』へ参加しています。競技は1審と2審で行われ、まず、15個の審査用ちょこに、広島県内のさまざまな日本酒が注がれます。1位から15位まで、特徴をメモしながら自分がいいと思う酒の順位を決め、提出。「事前に日本酒に精通した審査員の先生が決めた順位と比べて、自分が付けた順位がどれだけ一致するかがポイントです」 2審では、同じ15種類がシャッフルされて出てきます。1審のメモを見ながら、再びそれぞれの酒に順位を付けます。1審と2審で同じ酒に付けた順位の差が点数になり、点数の低い方が酒の利き分け能力があるとされます。山新さんは、2度の春秋連覇を達成しました。 この競技会へ出る意味について、次のように話されました。「時として、自分たちの酒がいいか悪いか、どの位置にいるのかが分からなくなります。競技会を通して自分が見えてくるし、例えば一般的に、世間の皆さまが良くないといわれる酒に、自分がいい点を付けるということは、賀茂鶴の原酒・調合課で働く者として、決して良いこととは言えません」 今は仕事に懸命に打ち込む山新さんですが、学生時代は、リズミックダンスクラブで活躍。大学祭で大トリを飾ることもあるほど人気があるクラブです。もともと体を動かすのが好きで、研究の合間によく踊っていたとか。今でも、健康でいることがいい仕事につながると、ジム通いやスポーツを積極的に続けています。 山新さんと広大生をつなぐ話もあります。「僕も卒業してまだ5年。学生とも同じ目線でよく話をします。毎年10月に開かれている西条酒まつりでみこしを担いでくれたり、地域の人たちと一緒に楽しんだりしている様子を見るのはうれしい」と笑顔に。 そんな学生へのメッセージです。「広大は優れた先生方をはじめ、研究する場として刺激的でやりがいがあります。研究以外にも、問題を解決するためのロジックの構築やコミュニケーション能力など、この環境で学んだことは多い。それらは仕事に確実に生かされています。卒業後は、ぜひここで一緒に仕事をし、地元西条を盛り上げていきましょう」と、熱く話されました。酒は生き物。繊細に向き合う酒は生き物。繊細に向き合う利き酒競技会で、2度の春秋連覇利き酒競技会で、2度の春秋連覇地元西条で、一緒に仕事を地元西条で、一緒に仕事を022(上)酒が入ったタンクを前に、酒造りの面白さと厳しさを説明。「実験など大学で身につけたスキルが基礎だとすると、仕事に就いてからの勉強はもっと重要」と山新さん。年齢差があまりないため、大学生活へのアドバイスやクラブのことなど、古くからの友人のように話がはずむ(下)漆喰の白壁とれんがの煙突が美しい、賀茂鶴酒造本社醸造蔵。見学室では試飲もできる広島県きき酒競技会で2度の春秋連覇。舌で感じる味のほかに、酒を口に近づけた時、立ってくる「立ち香」と、口に含み鼻から息を出す時に呼気ともに感じる「含み香」で、点数を決めるという022
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