HU-plus(Vol.6)2018年4月号
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磁気共鳴画像装置(MRI)は、中に入った人の頭や体にごく弱い電磁波を当てて返ってきた信号の計算により高次脳機能を測定できる。山脇成人特任教授機能的MRI(fMRI)、光トポグラフィー、脳波、表情・脈拍・音声などの生理反応を同時計測し、人の感性をリアルタイムの脳情報として読み取り、感性(ワクワク感)を「見える化」する。ワクワクしているときの脳活動計測リアルタイム感性メータの実装化の経験に照らし合わせて、将来の自分の行動の結果を予測しているときに生じる心理状態を指す。これを脳活動から調べるため、脳波を測定して、それぞれの軸に相当する脳波成分を抽出した。マツダとの共同研究では、脳波に基づく独自の「ワクワクメーター」を自動車に実装し、運転者の脳活動からワクワク感を測定・可視化、さらに感性に基づくフィードバック制御を試み、S評価を受けた。 フェーズ2では、脳活動をより深く探るため、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)の中に運転模擬環境を構築している。fMRIは脳が機能している時の活動部位の血流の変化などを可視化できる。 また、ワクワク感は個人差があるため、性格タイプごとのワクワクメーターの開発も試みている。 笹岡准教授は「fMRIによるメカニズム解明を進めるとともに、脳波などの感性の代用特性の精度を高めつつ、可視化する技術を深めていきたい」と語る。痛みを可視化して医療に応用 一方、大学院工学研究科の辻敏夫教授は、ネガティブな感性の代用特性となる痛覚の可視化に挑む。従来の痛みの評価は、痛みを相対的に評価して数値化するもので、痛み経験や性格に依存し、主観的評価になりやすく、客観的な定量的評価法がなかった。 辻教授らは、自律神経活動と強く関係している血管壁の剛性や粘性などの機械インピーダンス(加えた力とその結果得られた速度の比)を計測する方法を開発した。指にパルスオキシメーターや連続血圧計を、胸部には心電図の電極を装着してもらい、指先に機械により痛み刺激を与えた時の生体信号を測定する。 実験では、機械刺激の強度や刺激形状によって血管粘弾性が有意に変化することや、従来の評価法に比べて個人差が小さく、刺激に対してより線形的な変化を示すことが示された。 痛みには個人差があるが、血管の粘弾性特性の変化をリアルタイムに評価して痛みを推定しながら治療を行うことで、患者の負担軽減につながると期待される。 辻教授は「痛みは、ワクワク感の対極にある不快感につながるものだが、我々の方法が医療へ応用できる可能性が出てきた」と語る。触感の評価から質的価値向上へ 大学院工学研究科の栗田雄一教授は、感性の中でも触感に注目し、その評価方法を開発して、触感が関わる質的な価値を向上させることを目指している。触感は感性の重要な要素だが、視覚などに比べると、完全に再現できる指標(物性値)がない。このため、擬似的に作った指のような装置を実際の製品に当てて、滑り度が分かるような技術を開発中だ。ヒトの指は柔らかく汗をかくため、そうした状態を再現するための工夫もある。 またTOTOとの共同研究で、水の手触り感の指標づくりにも挑んでいる。 栗田教授は「外受容感覚としての触感を評価する指標を明らかにした後、触感が脳の活動としてどう働いているかを確認したい」と語る。持続的研究のため「感性科学」確立を 感性を付加価値としてものづくりなどに生かしていくため、基礎研究、そして応用研究を進めていくことはプロジェクトの大きな目標である。加えて「感性科学」といった学問体系を構築していくことも、大学においては重要になる。現在は、学生がそれを体系的に学べる場がない。 山脇特任教授は「従来の枠組みではない、脳科学、医学、工学、心理学、経済学、応用に際しては倫理学など、分野横断型にして、継続できるような新しい研究センターあるいは研究科の仕組みを作ることが望ましい」と語る。 感性科学は、学際的な学問だ。幅広い領域の知恵を結集し、持続的な研究の場を作っていかなくてはならない。        取材・文/日経サイエンス012

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