HU-plus(Vol.5)2018年1月号
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 日本の観光地は、国内の旅行者だけをターゲットに長い間繁栄してきました。それが近年、外国人が日本に訪れる観光(インバウンド観光)が急成長。2015年には、とうとう外国人旅行者の数が日本人の海外旅行者数を上回りました。最初は一部の地域に集中していた外国人旅行者ですが、スマートフォンやタブレットを片手に全国の至るところに足を運び、観光産業の発展に貢献しています。 私は地理学の視点から観光を分析していて、宮島や飛騨高山などの人気観光地で過去に調査を行いました。2008年当時、外国人観光客は、欧米や中国語圏、韓国からの旅行者が多かったのですが、現在は東南アジアからの旅行者が増え、行動パターンも複雑になってきています。観光の主な情報源は「ガイドブック」「観光地のホームページ」から「観光者自身が発信する画像」「口コミや体験談などが閲覧できる旅行情報サイト」に変わり、観光客一人一人の声が大きな影響力を持つようになりました。観光産業の関係者は「いつ、何がきっかけで、観光客の流れが変わるのか単純に予想できなくなった」と話します。 さらに観光産業の発展で重要なのが、ボランティアの存在です。例えば宮島では、登山道や桜の手入れ、海岸沿いの掃除を行うのは島内や広島市内からやってきたボランティアたちです。瀬戸内芸術祭で有名な直島と周辺諸島では、芸術作品の管理やイベントの手伝いを全国から集まるボランティアたちが担っています。ボランティアのために観光地に来て、その地域を旅行する、いわゆる「ボランティア・ツーリズム」という新しい観光形態を生み出したと評価できます。しかし裏を返せば、国際的に有名な観光地でさえ、観光産業は、地域の共同財産である自然的・文化的観光資源を維持する人材を雇用できるだけの利益を上げていない、もしくはお金を回せていないということです。 外国人旅行者の増加に伴い、政府は宿泊施設や通訳ガイド資格などの規制緩和を行いました。そのため、観光者が増えすぎて京都のように生活さえしづらくなった場所、慢性的な渋滞が観光者の満足を下げる場所が増えました。このような現象は世界中で起こっていて、すでに25年前から「持続可能な観光」、近年では「観光地のレジリエンス(復元力)」というキーワードで議論・研究されています。日本における国際観光の発展を経済利益に限られた狭い視点からではなく、地域の持続可能な発展を視野に入れて分析することが重要で、いわば「総合科学的な視点」が必要です。新しくスタートする国際共創学科(IGS)でさまざまな国籍と背景を持つ学生が一緒に考え、議論するのにもぴったりのテーマではないでしょうか。大学院総合科学研究科フンク・カロリン教授(2018年4月から総合科学部国際共創学科長に就任予定)外国人旅行者が増え続ける今、私たちが議論すべきこと2018年4月 総合科学部に国際共創学科を新設! プロモーションビデオ公開中広島大学 国際共創学科017

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