HU-plus(Vol.5)2018年1月号
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 現在、第3次人工知能(AI)ブームが到来していると言われ、将棋や囲碁、車の自動運転、病気の診断など、これまでコンピューターには難しいとされてきた多くのことができるようになるという期待が高まりつつあります。一方、AIに仕事を奪われる、支配されるといった不安も出てきました。このような期待と不安が出てくるのは、以前のAIは人がコンピューターに教えていたのに対し、現在のAIはコンピューターが自分で学習するというのが大きいと思われます。これは、21世紀になってから発達してきたビッグデータ、ディープラーニングという情報技術によって可能になりました。 ビッグデータは、多種多様な大量データから特徴を見つけ出すもので、人が工夫するよりも、データを増やすことが有効であることを示しました。例えば、2008年にGoogle(グーグル)はインターネットの検索キーワードからインフルエンザの流行を予測するサービスを開始し、医療機関の調査と同等以上の確かさで即時性があると大変注目されました。これはGoogleが検索キーワードとインフルエンザの流行の関連に注目し、大量のデータから多くの数式を作り、その中で確率が高い数式を使って実現されました。残念ながら流行を過大評価していたことが判明し、2014年にサービスは終了してしまいましたが、従来手法との組み合わせでより正確になるという研究結果も報告されています。 ディープラーニングは、人間の脳をまねたニューラルネットワークという仕組みを使ってコンピューターが学ぶことを可能にします。ビッグデータで培われた多種多様な大量データを扱う技術と組み合わせ、データの統計的な関係を利用することで、人が持つ常識や思い込みなどに左右されずに、目的に合わせて「どのデータを」「どのように使うか」までコンピューターが自動的にしてしまいます。しかし、コンピューターが出した結果の理由が人には分からないこともあります。実際に将棋や囲碁でAIが人に勝ったとき、プロ棋士でも悪手と思った一手が勝利につながりましたが、コンピューターがその手を打った時点でその意図が分かる人はほとんどいませんでした。このような事実がAIに対する不安をあおっているとも考えられます。 しかし、AIは際限なく期待できるものでも、極度に不安がるものでもないでしょう。ビッグデータは大量のデータが効果的でしたが、それだけで十分ではなかったように、ディープラーニングもデータだけ与えれば何でも学習するものではなく、人による調整も必要です。私たち人類がこの新しい力をどのように利用するかは、まだまだ議論の余地があり、みんなで判断するための材料を多く提供することが研究者の役割だと思っています。大学院工学研究科林 雄介准教授(2018年4月から情報科学部専任予定)「人工知能」と「ヒトの頭脳」で新しい未来ができる2018年4月 情報科学部を新設! プロモーションビデオ公開中広島大学 情報科学部016

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