HU-plus(Vol.5)2018年1月号
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月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者に分かりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2017年9月に創刊46年を迎えました。SPECIAL REPORT 広島大学放射光科学研究センター、通称HiSOR(ハイソール)は、国立大学に唯一設置された放射光実験施設だ。小型施設ながら世界オンリーワンの先端装置を駆使して、物質科学や生命科学において成果を生み出しつつ、国内外の共同研究を通じて人づくりにも貢献。世界的にも存在感がある。 電子を光の速度(1秒間に地球を7周半する速度)まで加速し、磁石の力によってその軌道を曲げると、運動の方向に沿って強力な光が放出される。これはシンクロトロン放射光と呼ばれ、人類が手に入れた最も“強力な光”とされる。単に強度が強いだけではなく、幅広い波長の光を発生することができ、指向性が強く偏光特性を自由に制御できる、といった優れた特性があり、研究のツールとしても強力だ。ここで言う「光」とは広義の光、すなわち電磁波を指し、可視光線だけではなく、赤外線、紫外線、X線も含まれる。自然界では銀河の中で放射光が発生しているとされるが、HiSORの専用加速器では主に紫外線から軟X線(比較的波長が長いX線)を発生することができる。 放射光を物質に照射すると、その一部が吸収されて物質表面から電子が放出されたり、放射光自身が物質によって散乱されたり、回折したりする。その様子を観測すると物質の構造や性質、時間変化を探ることができるため、基礎科学研究から産業利用まで、放射光の応用分野は幅広い。 日本には、国の施策で設置された放射光施設が4カ所ある。1980年代に、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)のPhoton Factory(X線)、自然科学研究機構分子科学研究所(愛知県岡崎市)のUVSOR(極端紫外線)という中小規模の施設が設置された。 そして1997年、兵庫県の播磨科学公園都市に建設された世界最大の大型放射光施設SPring-8(硬X線)が供用を開始した。その前年にスタートしたHiSORは、すみ分けを図るために小型施設(真空紫外線)として計画された。SPring-8などの大型施設は、幅広い分野、利用者をカバーすることを目指しているが、小型施設であるHiSORでは、重点的に推進する学術研究領域を明確化する。どちらも物質の性質や機能を決定するために用いられ、補完的な役割が期待されている。 SPring-8が発生する波長が短い硬X線は透過力が強く、物質に照射すれば、X線回折によって原子の配列が可視化できるため、タンパク質などの原子配列構造を調べるのに適している。 一方、HiSORの紫外線や真空紫外線は可視光よりやや波長が短い光だが、電子との相互作用が非常に強く、物質内で電子がどのような運動をしているかを捉えられる。電子は物質に化学的性質と物理的性質を与えている。例えば、金属が磁性を帯びるようになる磁化、物質表面で起きる化学反応を促進する触媒作用、ある物質を極低温まで冷やしていくと電気抵抗率がゼロとなる超伝導など、いずれの現象にも電子のふるまいが密接に関わっている。左から、HiSORセンター長の島田賢也教授(物性物理学)、副センター長の奥田太一教授(同)、松尾光一准教授(生物物理学)。奥田教授は環境負荷の少ない新材料の創製に、松尾准教授は生体物質の立体構造の解明に挑む世界オンリーワンの先端装置を駆使して成果を生み出すHiSOR011

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