HU-plus(Vol.5)2018年1月号
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隅に』で戦争・原爆を題材にした漫画を描きましたが、きっかけは編集者から「広島出身なんだから、ヒロシマの話を描いてみませんか」と言われたことでした。当初は出身者だからというだけで、戦争経験者でもなく、被爆二世や三世でもない自分には無理だと思いました。「やってみたらいいんじゃない」と夫に勧められ、「日常を描く」という自分なりのやり方で描き始めました。それが作品になり、映画化され、大きな反響を呼んだ今、「なるべくたくさんの人がヒロシマを題材に描くべきだと思っています。日本国内はもちろんですが、海外にも読みたい人はたくさんいるはずです」。さらに「私たちは戦争を知っている人と交流できる最後の世代」とこうのさん。戦争を知っている世代の人と誠意を持って接し、表情を含めた彼らの言葉を逃さないように、その一つ一つを心の中に大切に取っておくような気持ちでいることが必要だと考えています。描きながら生きていく方法を探る 「次にまたヒロシマのことを描いたら、“ヒロシマといえばこの人”みたいになってしまうので、別のものを描いていきたい」と話すこうのさん。『この世界の片隅に』が代表作と言われるようになったことで「描かなければどうだったろう」と考えることも多いそうです。 寝る間も惜しんで描くくらい、こうのさんにとって漫画は恋人のようなものでした。でも、『夕凪の街 桜の国』を描き、『この世界の片隅に』を描くうちに、漫画は伴侶なのだと思うようになったそうです。描きながら生きていく方法を手探りで探っていくんだと。「描かなかったら“ちゃんと生きよう”という気持ちはもっと少なかったように思います」 広島大学の学生に「好きなものをたくさん見つけてほしい」とメッセージをいただきました。「私はデビューが遅かった。それは好きなものが少なかったからだと思うんです」。もっとためらわずにいろんなものを好きになって、追いかけていれば、もっといっぱいの題材が“描いてくれ”と言ってきたのではないか。好きなものを見つけると、明かりが灯るような気がする。好きなものがいっぱいあると、明かりもいっぱいになる。その明るい方向に向かって行くことで、進むべき道が自然に決まっていくのだとこうのさんは考えます。 「人は好きなものでできていくのだと思います。でも、好きになった人が自分を好になってくれなかったり、好きだった人に幻滅したり、失敗したりすることもあるでしょう。でも失敗を恐れずに、誰にでもあることだと思って、進んでほしい」と結びました。「最後のページはカラーにしたかったんです」と『この世界の片隅に』について話すこうのさん。映画『黒い雨』がヒントになっているそうです「戦争経験者とも、それ以外の人とも共有できるものにできたらいいなと思って描きました」その想いは漫画から映画に受け継がれ、長く、多くの人に届けられている好きなものを見つけると、明かりが灯る。ためらわずに、失敗を恐れずに好きを追いかけて。010

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