HU-plus(Vol.4)2017年8月号
15/32

成績や患者のQOL(生活の質)向上に貢献している。 まず、「VATS(Video Assisted Thoracic Surgery)」とは、胸腔鏡手術のことで、胸に数カ所穴を開け、そこから内視鏡や手術器具を入れて行うため、胸に大きな傷を付けずに済む。通常の胸腔鏡手術では、2次元のモニター画面を見ながら行うが、「ハイブリッド」の場合、肉眼で病巣を直接観察することと組み合わせるため、より精度の高い手術が実現できる。一方の「区域切除」は、腫瘍とその周囲をできるだけ小さく取り除くための手術だが、肺動脈、肺静脈、気管支を露出させ、さらに末梢の細かいレベルまで剥離して行う、ひと手間をかけた手術だ。 岡田教授は、「低侵襲手術には、傷をできるだけ小さくするという方向性と、肺活量をできるだけ残すという方向性(縮小手術)がある。傷を小さくして、かつ肺活量を残し、根治を目指すのが理想的」と語る。これら2つのアプローチは、広島発で世界へと広がりを見せている。 放射線療法も大きく進化している。かつて、がんの放射線療法と言えば、副作用が強く、症状緩和が主目的の治療といった印象が強かったが、高精度の放射線の進歩、あるいは化学療法の組み合わせにより、根治可能ながんも増えており、肺がんはその代表例といえる。 背景には、この20年余りで放射線治療装置が大きく技術進歩を遂げたことがある。ピンポイント照射と呼ばれる定位放射線治療や強度変調放射線治療が用いられるようになり、がんだけに放射線を十分照射することが可能になり、これを画像誘導装置と組み合わせて、より精度が高められる。 ピンポイント照射の国内のパイオニアである永田靖教授は、「周りの臓器への影響を最小限に抑えつつ、早期肺がんの根治を目指せる。一方で、手術不能な局所進行肺がんも根治できる可能性が大きい」と語る。 永田教授は、県が2015年に立ち上げて県医師会が運営する「広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC)」のセンター長も兼務する。これは、大学病院に、県立広島病院、広島市民病院、広島赤十字・原爆病院を加えた4病院の、最新鋭の放射線治療装置を備えたネットワーク型がんセンターであり、外来で治療が可能な患者を集めて高精度治療を行う拠点として、広島発のモデルであり全国から注目されている。 手術療法、放射線療法、薬物療法は肺がん治療における3本柱であり、それぞれが効果を高めつつ、時には組み合わせによって、毛利元就の3本の矢のように、肺がんをはねつける力を持つ。各科では、定期的なカンファレンスなどで常に横の連携を取りながら、患者に最適な治療を模索しつつ、時には競い合って技術を高めている。 肺がん克服には、これ以外のアプローチも重要だ。まず、がんを的確に捉える診断技術で、早期発見だけでなく、治療効果の見極めにも必須で、放射線診断学や病理学とも連携していかなくてはならない。さらに、喫煙のような明らかに肺がんのリスクと分かっているものを遠ざけ、予防につなげる公衆衛生の課題もある。総力を挙げたたゆまぬ闘いが続く。        取材・文/日経サイエンス岡田教授の開発したハイブリッドVATSでは、通常は4~6cmの操作創および内視鏡を挿入する1cmの創で肺がん手術を行っている。岡田守人教授(呼吸器外科)原爆放射線医科学研究所永田靖教授(放射線治療科)大学院医歯薬保健学研究科肺がんに対するピンポイント照射。体の奥にあるがんにのみ集中して治療することができる。早期肺がんピンポイント照射の場合、患者の70~80%は苦痛を全く感じない。肺がんに対する定位放射線照射。多方向から腫瘍に対して照射を行うので、1方向からの放射線量はわずかであり正常組織のダメージが軽い。中心部には100%の線量が照射される。014

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る