HU-plus(Vol.4)2017年8月号
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月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者にわかりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2017年9月に創刊46年を迎えます。SPECIAL REPORT 日本人の2人に1人ががんになる。中でも毎年7万人の命を奪う肺がんは、がんの部位別死亡数では、男性で1位、女性も2位と、手ごわいがんだ。広島大学病院では、内科、外科、放射線科の知恵を結集して、肺がんの克服に挑んでいる。 肺がんは、早期に発見して治療を開始することが、治療成績の向上につながる。最近はCT検査の普及により、根治が可能な段階で見つかる人も増えてきたが、一般に肺がんで手術が可能な患者は、全体の約4~5割とされる。 早期診断には、がん検診の受診率を上げることが鍵になる。呼吸器内科の服部登教授は、「広島県がん検診精度管理評価会議」の議長として、県全体のがん検診の受診率、異常が見つかった場合の精密検査の受診率、がん発見率などの向上を目指して、指導的な役割を担っている。 肺がんには様々な分類があり、その診断を正確に付けて治療方針を決めることも、内科医の重要な役割だ。肺がんは、まず「小細胞がん」と「非小細胞がん」に大別される。小細胞がんは全体の1割強だが、進行が速くたちが悪い。大半を占める非小細胞がんは、約7割を占める「腺がん」のほか、「扁平上皮がん」「大細胞がん」がある。 治療法は、がんの種類と進行度によって決まってくる。ごく初期で、がんが肺の局所に収まっているか、リンパ節転移があっても肺の入り口付近にとどまっている場合、手術で取り除ける可能性が高い。この段階では、放射線を集中させる放射線治療でも、非常に高い治療効果が期待できる。より進行していれば、放射線と抗がん剤を組み合わせることもある。転移がある場合は基本的には抗がん剤による全身治療を行う。複数の選択肢がある場合もあり、どの人にどの治療が最適か、的確に見極めていかなくてはならないのだ。 内科は、薬物療法の担い手でもある。かつて手術などの局所治療が見込めない場合、肺がん患者の生存期間は1年とされたが、近年、抗がん剤が進歩したため、2年、3年と延ばせるようになった。特に腺がんでは、がん細胞の遺伝子変異を調べ、効果を事前に予測できる薬も出てきた。がん増殖に関わるタンパク質などの過剰産生に関わる分子を狙い撃ちにする分子標的薬は、今後も次々と開発される見込みだ。さらに、がんはヒトの免疫機構にブレーキをかけるが、そのブレーキを外す免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボやキイトルーダ)も近年登場して、高い効果が得られる人もいる。 服部教授は、「より早期に診断を付けて、手術や放射線治療が可能な患者さんの道筋を付ける。まだ薬だけでがんを治すことはできないが、薬の種類も増えたので、その人に合った薬を選べば効果が期待できる」と語る。 さて、早期にがんを取り切って根治を目指す外科手術では、患者に優しい低侵襲の手術が行われている。岡田守人教授が開発した「ハイブリッドVATS」や「根治的区域切除」という術式は、治療世界のトップ100大学に向けて挑戦する広島大学の取り組みをシリーズで紹介し、将来性を探っていきます。内科・外科・放射線科の3本柱─組み合わせで持ち味発揮肺がんは、他のがんに比べると、病気の広がりや症状、治療の効果などが多様で、手術だけでなく、抗がん剤や放射線治療を組み合わせることで、治療効果が高まる。まず内科で正確な診断を付けて、ステージを調べることが、的確な治療への第一歩だ。NPO法人キャンサーネットジャパン制作「もっと知ってほしい肺がんのこと」を参考に作成。服部登教授(呼吸器内科)大学院医歯薬保健学研究科013

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