HU-plus(Vol.3)2017年4月号
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第1特集◎常識の先をゆく広大イノベーション大学院工学研究科システムサイバネティクス専攻生体システム論研究室 教授辻敏夫Toshio Tsuji動かない手を、自在に動かせる義手に変えていく。大学に入学する前から辻教授の研究室に入ることを目標にしている学生が多い。「優秀で熱心なので、私はマネジメントに徹して、研究の基本アイデア以外の大部分は学生たちに任せています」と笑う辻教授。先日も県内の高校生が見学に来て「将来この研究室に入りたい」と話したそうです「訓練中なのでなかなかうまく動かせません」。製作に協力した学生自らが義手を装着して仕組みを説明してくれました人間とロボットの運動制御、ニューラルネットワーク、マン・マシンシステムなどの研究に従事している辻敏夫教授脳の電気信号を、コンピュータが瞬時に判断 辻敏夫教授は20数年前、手を切断した学生のために義手を作り始め、ずっと研究を重ねてきました。「世界でも最先端の義手だと思います」 辻教授が研究してきたのは、主に義手の中身。義手は手を失った人の手の代わりになるものですが、現状では手の形をしただけの、動かない義手を付けている人がほとんど。辻教授は頭で思ったことができる、本当に手の代わりになる義手の仕組みを作る研究を続けてきました。 「実は人間と機械は似ていて、人間の手は電気で動いているんです。脳の中に電気の回路があって、脳の情報は電気でやりとりされている。頭の中でチョキを出そうと思ったらその信号が腕に降りて手がチョキを出すのです。だから神経を降りてくる電気信号を計測して、その電気信号の意味――何をしたいのか、どんな力でしたいのかをコンピュータが瞬時に判断してその動作を手に伝えて再現しているのです」3Dプリンタで義手がより身近に ただ、手を失った人の状況は一人一人違います。失った後も手のことをしっかりと覚えていて、すんなりと義手を使いこなしてしまう人がいるかと思えば、その状況がショッキングすぎて手のことを記憶から消してしまい、なかなか義手を使えないというケースもあるそうです。「一人ずつにシステムを作ればよいのですが、それは大変なこと。だからコンピュータに学習させて、コンピュータがそれぞれの人に合わせてシステムを作り直す、という研究をしています。そしてそれは義手に限らず、車いすのロボットなど、いろいろなものに使えるのです」。義手は使う人も訓練が必要なため、辻教授の研究室では訓練のためのシステムも作っていて、兵庫県のリハビリテーションセンターと研究を進めています。 その義手の最新バージョンが辻研究室の江藤慎太郎さん(2017年3月博士課程前期修了)による3Dプリンタで作った義手。これまでは金属で作っていたため、大変な時間と費用が掛かっていましたが、3Dプリンタなら指の設計図さえあれば、プリンタのスイッチを押すだけで製作が可能。使って指が壊れても、簡単に付け替えができます。「3Dプリンタでコストが抑えられ、義手が身近なものになるかもしれません」。本当に役立つものにするために、10年、20年先を見据え、実用化に向けた研究が続けられています。008

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