HU-plus(Vol.3)2017年4月号
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 広島市安佐南区山本という地域は、若い子連れ世代の居住が多く、今も人口が増えている『少子化』とは無縁の街です。杉田雅之さんは、ここで三代続くケーキ屋さんを営み、地元で大評判の店をけん引する若きリーダーです。 子どもの頃から、作ること食べることが好きだったという杉田さんは、20歳の時に「父の跡を継ぐ」と決意。ただ、当時父の店の売り上げはあまり良くなかったそうです。「店を変えないと…」。毎朝6時前に起床して店を手伝い、それから広大ヘ通う日々の中で、杉田さんにある決意が芽生えました。「父と同じやり方では先は望めない。父のもとを離れて修行をしよう」 卒業後、神戸の有名なパティスリー・レストランで4年間を過ごした杉田さんは、ケーキづくりの技術だけではなく、料理やサービスを通して、経営をしていくための知識とこれから先への確かな実感を得ていました。 26歳。帰郷して最初に行ったことは、父の店を壊すこと。株式会社を起こし、新しい名前で店を作り替えました。店名は『ハーベストタイム』。なぜ父の店のまま立て直す形ではなかったか伺うと「一度離れたお客さまにまた来ていただくのは、それだけエネルギーがいることなんです」。壊してまたスタートする。最初は不安も大きかったそうですが、お客さまが来てくれるようになり、地域がお店を支えてくれていることを実感したといいます。 父が守ってきた『モンテドール』という店名は、株式会社の商号として残しました。「やはり僕の原点であり、アイデンティティーですから。祖父と父の想いはしっかりと受け継ぎたくて」。 その後、2号店としてパン屋『スギタベーカリー』、3号店のカフェ『ワンダーストーブ』もオープンしました。3店舗とも安佐南区山本に構えたのは、「やはり地元が好きだから」。ランチを提供するワンダーストーブは、毎日地元の女性客の行列ができるほどに成長。「食べる時間の大切さを家族や友人と味わい、人と人がつながることで育まれる心の豊かさを実感できる場にしたい」と想いを語ります。 「大学時代のニックネームは『三代目』でした」と笑う杉田さん。卒論のテーマは近代史でしたが、その時に教授に言われた言葉が今も強烈に残っているそうです。「何事も3つの軸で考えなさい。①何をしたいか、②できるかどうか、③すべきことかどうか」。3つ目は、それが「社会的価値があるかどうか」を考えなさいということ。杉田さんは今でも、新しく何かを始める時には「自分がやる意味はあるか?」「お客さんがハッピーになれるか?」を問いかけるといいます。 「大学で学んだ宝は、まず人。この仕事も人に寄り添うことが 本質です。人を知るために文化を学び、心理学を学び、歴史や語学も勉強しました。その過程で知り合えた友人も宝だし、今も事業でつながっています」。大学時代に学ぶことの楽しさを知り、学習する習慣が身に付いたからこそ、今でも積極的にセミナーに通い、経営に生かせているのだそうです。「広大の総合科学部は、さまざまな分野を幅広く学べる環境が整っています。経営という分野一つをとっても、数字、スタッフの労務、財務も。大学時代に広く学ぶことができたことで、今、自分の視座が高いところにあると感じています」若いスタッフたちの意見やアイデアを反映させながらケーキづくりに取り組む。手前の『100年のロールケーキ』は、祖父・父・杉田さんの三代続く想いが込められている『ハーベストタイム』の店内には誕生日を祝うデコレーションケーキ10種類や、焼き菓子・生ショートケーキなど25種類ほどが並び、連日多くの人で賑わう022022

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