HU-plus(Vol.3)2017年4月号
14/32

 日本では平均寿命は男女とも80歳を超えて過去最高を更新し、世界に類を見ない超高齢社会の道を突き進む。単なる寿命の延伸だけでなく、健康的に老いること、すなわち健康長寿は社会的にも大きな課題である。それを科学で支えようという研究組織が、広島大学健康長寿研究拠点(HiroshimaResearch CenterforHealthyAging:HiHA)である。 2013年広島大学は、文部科学省の研究大学強化促進事業の助成を受けた。HiHAは、世界トップレベルの研究活動を展開する広大の「インキュベーション研究拠点」の1つとして、学内で認定された。工学系の大学院先端物質科学研究科を核とした全学的な研究組織で、工学部、生物生産学部、理学部に加え、臨床医学を担う医学部をも擁する広大ならではの横断的な組織である。幅広い専門を持つ教員や学生が参画し、分子生命機能科学講座の河本正次教授が拠点リーダーを務める。 研究の柱として、「老化とがん」「寿命調節」「免疫制御」「食と微環境」の4つのテーマを掲げており、健康寿命を支えることを目標に据える。実用化を目指して、製薬企業や食品企業との共同研究も多数行われている。 河本教授は、「全学レベルで基礎から応用までシームレスにカバーした健康長寿の研究拠点は、国内外にない。広大独自のアプローチで健康長寿の解明に挑み、疾患予防につなげていきたい」と意気込みを語る。 広島ならではの特色は、例えば、「老化とがん」領域のメンバーとして、原爆放射線医科学研究所の田代聡教授が名を連ねていることだ。長年、放射線が遺伝子に与える影響を調べてきたことが、発がん抑制の研究にも活かされることが期待される。 HiHAの特徴の1つが、海外との強力な共同研究体制である。参加している研究者たちは、かねてより各研究領域において、英国がん研究所(現・フランシス・クリック研究所)およびサセックス大学、米国ハーバード大学医学部、台湾のチャングン記念病院といった世界の一流研究機関と共同研究の実績を持つ。これをさらに発展させ、助教や博士研究員、大学院生などの若手研究者を長期にわたって相互に派遣し合う交流を図っている。また、国内外のトップ研究者を招いての国際シンポジウムやワークショップ、セミナーも精力的に開催している。 提携先の目玉が、欧州最大の生物医学研究の拠点である英国フランシス・クリック研究所で、同研究所長のポール・ナース博士(元・王立協会会長)はHiHAのスペシャルアドバイザーである。遺伝学者であるナース博士は、がんの治療法やiPS細胞などの増殖研究にもつながる細胞周期・細胞増殖を制御するキーとなる因子の発見により、2001年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。2017年4月、広島大学でもこれまでの研究成果について熱く講演した。 また、HiHAのアドバイザリーボードに名を連ねる登田隆博士は、長らく同研究所で細胞周期に関する主要な研究に携わった後、2015年に先端研・特任教授とし英国フランシス・クリック研究所米国ハーバード大学医学部台湾チャングン記念病院英国サセックス大学広島大学健康長寿研究拠点老化とがん領域寿命調節領域免疫制御領域食と微環境領域月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者にわかりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2016年9月に創刊45年を迎えました。SPECIAL REPORT世界のトップ100大学に向けて挑戦する広島大学の取り組みをシリーズで紹介し、将来性を探っていきます。基礎研究からヒトへの応用まで一貫して取り組む013

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る