HU-plus(Vol.2)2017年1月号
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もっと進化したものに育てていける可能がある。そこには投資しよう、勉強しようと考えています。越智:私も未来を見通すのは、10年くらいが限界だろうと思っています。10年前に、整形外科の研究会で座談会を開きました。「未来を好きに語ろう」という趣旨だったのですが、今や議論の中心となっている「iPS細胞」の話は一切出ませんでした。一つの発見が10年先の世界を変えることを肌で感じています。金井:越智学長は何年先の大学の姿まで見据えているのですか?越智:大学に関していえば、10年後という目先のことだけを考えるわけにもいきません。長い目で見ながら、若い人が科学や学問を自由にできるような環境を提供することが、大学では一番大事なことです。それも踏まえ、学長に就任した際に「100年後にも世界で光り輝く大学」というキャッチフレーズを掲げました。広島大学は2014年、スーパーグローバル大学創成支援事業のタイプA(トップ型)に採択されるなど、優れた教育・研究力を認めていただいています。一方、10年後には世界大学ランキングのトップ100に入る大学になるという約束を果たさなければなりません。10年後も、そしてその先の100年後も見据え、人材育成と研究を推進していきたいと思っています。金井:頼もしい限りです。ぜひ広島大学には基礎研究をしっかりとやっていただきたい。いつ、どんな形で役に立つか分からない研究を継続していくことは私企業にとって難しいですから。越智:広島大学では、大学内で企業と共同研究を行う「共同研究講座」制度を設けています。現在、マツダと「次世代自動車技術共同研究講座」を立ち上げ、広大教員とマツダ技術者との間で日々の研究を加速しています。金井:企業の側がもっとも知りたいのは大学のシーズ(技術や資源)です。共同研究講座にはそこを期待したい。シーズを見たり聞いたりしても、関心を持たずに見過ごされる場合がほとんどです。でも、「この技術をあそこに使ったら、ものになるかもしれない」という目利きができれば、すごく面白いことになると思います。越智:何か新しいものに直結できるようなシーズを探し出すという考えは基本的に私も同じです。ただ、医療の世界ではイノベーティブなものや全く新しいものというのは、それほどありません。誰かのアイデアと誰かのアイデアを合体させたり、アンテナを高くしていち早く手にした情報を何かと組み合わせたりする“つなげる力”が、新しいものを生み出す原動力になると信じています。金井:おっしゃるとおりです。2015年6月に「ひろしま自動車産学官連携推進会議(ひろ自連)」が創設され、企業、自治体、大学など広島県内の自動車に関わる人が一堂に会する場ができました。独創的な技術や人材を生み出す場になればいいと思っています。理想をいえば、自動車に関する独創的技術と文化を追い求める人々がもっと広島に集まり、世界を驚かせる技術と文化が持続的に生み出される聖地にできたら素晴らしいですね。越智:広島における地方創生に関していえば、企業ではマツダが中心的な役割を担われるのではないでしょうか。金井:古典的な考え方かもしれませんが、地方創生で一番重要なのは雇用です。それも、質が高くて魅力のある雇用が、その地域にあるかどうかが鍵になると思います。越智:確かに、そういう雇用が広島にもあれば、首都圏に出ていかなくてもいいし、広島に来て暮らしたいと思う人も出てくる。人口も自然と増えていきますね。金井:とはいえ、マツダが今の生産台数をむやみに増やすわけにもいきません。日本国内で作って外国で儲けるというビジネスモデルも今後はなかなか厳しいでしょう。競争力を高めるためには合理化もしなければいけない。すると、生産に直接関わる人は減っていくかもしれません。もっと付加価値の高い間接業務を増やし、利益を上げられる質の高い企業となって、地方創生の柱となりたいと思っています。その一方で、中小企業は人材確保に苦労しています。最新の技術を注ぎ込んでも、それに対応できるスタッフがいないために、結局はお金を中央に吸い上げられてしまう。この図式を何とかして変えるために、人材を地元にキープできる仕組みを築いていかなければならないと思っています。越智:グローバル化に対応するため日本の大学も、留学生を増やしたり、英語の授業を導入したりするなど、さまざまな取り組みを行っていますが、日本人の英語のコミュニケーション能力が海外の人に比べて低いことは否めません。例えば、カンボジアでは授業のプリントが全部英語で書かれていました。残念ながら、広島大学では全て英語で行う授業は、まだわずかしかありません。そうした中、歯学部では授業で日本語と英語により同じ内容の講義をするなど、国際化の試みを進めています。金井:語学というよりも、国際コミュニケーションをとるための道具として英語はどうしても必要です。どこの国から来た人であれ、007

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