出口 達也大学院人間社会科学研究科 教授 / 専門分野:コーチング学07B 広島大学で教員としてコーチングを教える傍ら、柔道の女子ジュニアヘッドコーチを務めています。もともと私自身も柔道選手でしたが、実践と研究の両面から競技力の向上を模索するために大学教員の道に進みました。柔道の創始者・嘉納治五郎が言うように、柔道の本来の目的は人間形成です。さらに、柔道の上達と鍛錬には探究が欠かせません。柔道そのものが教育であり、研究なので、私が大学教員になったのは自然の流れだと思っています。また、柔道を通して学んだことは、他のスポーツにも当てはまるもの。最初は柔道の指導論が専門でしたが、競技の枠を超えてコーチング学へと研究の幅を広げました。 スポーツにはルールがあり、倫理観や道徳観が育まれます。また、試合に勝つために試行錯誤したり、感性を研ぎ澄ませたり。試合に負けることで初めて自分の欠点に気付き、相手を思いやる気持ちが生まれます。選手が負けた時に、どういう言葉をかけ、どういうことを気付かせるかがコーチングでは重要です。競技力を伸ばすだけでなく、人間的にも成長させられる指導を心掛けています。 アテネ五輪では、金メダルを獲得したヤワラちゃんこと谷選手の指導も担当。トップ選手になればなるほど効率を求めてしまいがちですが、彼女はあえて時間をかけて、効率の悪い練習にも学びを見いだしていました。また、地道なトレーニングは精神的にも鍛えられます。質・量ともに世界で一番練習している選手だったと思います。本人も私も優勝を確信していました。 現在の私の担当は全日本ジュニアなので、東京五輪の先の大会を見据えています。私たちにとっては、東京五輪はゴールではなく、一つの通過点。10年後、100年後も今の日本柔道が変わらず受け継がれるよう、若い人材の発掘と優れた指導者養成に取り組みたいと思います。スポーツには見ている人の心を動かし、元気づける力があります。皆さんにはぜひ今回の東京五輪をきっかけにスポーツの持つ力に気付いてほしい。もっと多くの人がスポーツの素晴らしさを知り、国内でのスポーツの地位が向上することを期待します。アテネ五輪にて谷選手(左)、阿武選手(右)とA柔道からコーチング学へ。人材発掘と指導者養成に取り組む。特 集 伝統を未来へ広大 スポーツ
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