斎藤 祐見子 (さいとう ゆみこ)研究室チーム一丸となって挑む 独自の実験スタイルを確立学問分野:総合生物/神経科学/神経化学・神経薬理学キーワード:神経細胞、一次繊毛、摂食、うつ病、GPCR人数:学部生3人、大学院生2人、教員2人、その他1人その他連携機関:広島大学大学院医系科学研究科、山梨大学、理化学研究所、カリフォルニア大学08teamDATA大学院統合生命科学研究科 生命環境総合科学プログラム 脳を構成する神経細胞の情報伝達は、神経伝達物質が細胞膜上にある特定の受容体に結合して行われる。受容体の一つであるGPCR(G蛋白質共役型受容体)はさまざまな物質と結合して生理機能を制御する働きがある。抗アレルギー薬や頭痛薬など既存の薬の約30%がGPCRに作用するように作られている。GPCRにはいまだ結合する物質が判明していないものも多く、創薬の可能性を大いに秘めていると言われている。 一方食欲や情動に関わるGPCRの一部は、細胞膜ではなく、細胞の特殊な環境センサー「一次繊毛」膜に存在している。斎藤教授(写真左から3番目)はこの一次繊毛に備わるGPCRに着目。既にここを起点とした新たな生物作用を見いだし、長期的には病的肥満やうつ病に効果的な創薬への貢献を目指す。 研究室の強みは、若手の小林勇喜助教(写真右奥)を中心に、メンバーで協力しながら一から切り開いてきた実験システム群だ。中には先輩から後輩へと引き継ぎ、3年かけて開発したものもある。現在では通常の培養に加え、海馬や大脳皮質のスライス培養、ヒト由来iPS神経細胞、情動系の疾患モデル動物などを使った、分子生物学を生かした実験が進行中だ。一次繊毛のGPCRのメカニズム解明という共通のテーマに対して各自が異なるアプローチで研究しているので、週一回の研究報告会では熱い議論が展開される。 「遠慮することなく自由に議論できる雰囲気作りを心掛けています」と話す斎藤教授。本来の教授室は実験用に開放し、研究室内にある小部屋を教授室として使用している。実験室とカーテン1枚で仕切られたその部屋には、学生たちの実験の様子が伝わってくるという。気軽に声を掛けやすい環境が、日々のコミュニケーションとお互いを支え合うチームづくりにつながっている。 今後の目標は、小さな研究室だからこそできる(ストーリー先行型ではない)、「見逃さない」丁寧な観察と思考を通して、一次繊毛を起点とした生理機能の真実に一歩一歩迫ること。「細胞から個体まで」カバーできる独自の実験システムとチームワークという強みを生かして、一次繊毛の生物機能を解き明かしていく。神経細胞の一次繊毛に着目し、創薬の可能性を探る16Hiroshima University Magazine
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