京都大学へ移る。教室の若い人たちと (1985年)本庶氏の座右の銘「有志竟成」が書かれた色紙。今回の講演会に際して、特別に書いていただいたCondence(確信)、Concentration(集中)、Continuation(継続)を挙げられていますね。本庶:まず、好奇心がないと研究者には向いていないのでやめた方がいいと、新入生歓迎会などでもよく話しています。そしてそれに向かって勇気を持って挑戦する。ここまでが研究者に欠かせない3つのC。そして、やる以上は集中してかつ継続する。続けるうちに自信が出てきたら、しめたものです。越智:先生が座右の銘とされている「有志竟成」にはどのような思いが込められていますか。本庶:中国の歴史書に由来する言葉なのですが、「志を曲げることなく堅持していけば、必ず成し遂げられる」という意味があります。自分が何を知りたいのかを明確にして粘り強く続けていけば、必ずたどり着くというのが僕の考え。志をはっきりさせることも重要だと思っています。越智:どこに向かって努力するのか、それを明確にしていないと遠回りになったり、迷ったりしてしまいます。最後に高校生や大学生、これから研究者になろうとする人へメッセージをお願いします。本庶:研究者を志す人が減っている現状は残念ですね。研究とは、好奇心に基づいて「知りたい」を突き詰めていくこと。一度きりの人生、自分の好きなことを追い続けるのも楽しいものです。ぜひ、研究者を志す人が増えてくれたらうれしいですね。越智:その通りだと思います。大学としても多くの人が研究を続けられる環境を整えていけるように努力していきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。ノーベル生理学・医学賞を受賞した「がん免疫療法」 私たちの体は、体内に微生物やウイルスなどの外来の異物が侵入すると、異物を攻撃して排除する仕組みを持っています。「免疫応答」と呼ばれるこの仕組みは、外来性の異物だけでなく、ウイルスに感染した細胞やがん細胞などの、内在性の細胞を攻撃することもできます。がん免疫療法は、これを利用した治療法です。 しかし、免疫応答には、自己免疫疾患などが起こらないようにする、抑制の反応もあります。本庶博士は、Tリンパ球の表面にPD-1という抑制に働く分子があることを発見し、がん細胞を攻撃するTリンパ球のPD-1が、がん細胞のPD-L(PD-1の受容体)と結合すると、Tリンパ球の働きに「ブレーキ」が掛かってしまう事を明らかにしました。 本庶博士たちが開発した新しいがん免疫療法は、がん患者さんに抗PD-1抗体を投与し、PD-1に「蓋をする」ことで、がん患者さんが持っている本来のTリンパ球の働きを本来の攻撃できる状態に戻す方法です。「アクセル」を踏み込むことに主眼を置いていた従来の免疫療法に対し、「ブレーキ」を外すという全く新しい考え方の治療方法と言えます。 現在、日本では悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫が、保険適用になっています。通常ブレーキがかかった細胞傷害性Tリンパ球がん細胞攻撃抑制攻撃PD-1PD-L抗PD-1抗体ありブレーキが外れた細胞傷害性Tリンパ球がん細胞抗PD-1抗体でPD-1をカバー解説:大学院統合生命科学研究科 免疫生物学 教授 古澤修一06Hiroshima University Magazine
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