のですか。本庶:4年弱です。日本に戻り、最初は東京大学医学部で真野嘉長先生の助手を務めました。そこで先生に「質の高い研究をしてくれれば、何をテーマに研究してもいい」と言われ、本当に好きな研究をさせていただきました。幸運だったと思っています。越智:1979年、37歳の時に大阪大学医学部教授として独立した研究室を持たれたわけですが、その時にはやりたいことが明確にあったのでしょうか。本庶:遺伝子の構造をもっと深く知りたい、DNA上で何が起きているかそのメカニズムを紐解きたいと、とにかく知りたいことが非常に明確で目標もはっきりしていました。モチベーションの塊で、データを見ながら、毎日若い研究者たちとのディスカッションの繰り返しでした。越智:その研究への高いモチベーションは、どのように生まれ、維持されているのでしょうか。本庶:「知りたい」という欲求である「好奇心」と「探究心」ですね。研究者にとっては大切な資質だと考えています。越智:2018年のノーベル生理学・医学賞の受賞理由は「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」の成果ということでした。「PD-1」という免疫を抑制するタンパク質は、日本人の2人に1人が罹患すると言われているがんの治療に画期的な道を切り開きました。「PD-1」の発見は先生の研究の中で、必然だったのでしょうか。本庶:基本的な命題としてあったのは、遺伝子の再構成の仕組みをもっと掘り下げるとともに、新たな免疫の仕組みを知りたいということ。そこでたまたま引っ掛かってきたのが「PD-1」でした。その発見はセレンディピティ(幸運な偶然)だと捉えています。研究も人生も、僕はラッキーの連続の上にいると思っています。越智:分からなかったものが徐々につながって新たなものが見えてくる。それこそが、研究の醍醐味でもありますね。目に見えているもの、すぐに実りのありそうな研究に注目や予算が集まりやすいですが、分からないものにこそ、投資が必要ですよね。本庶:もちろんです。それこそが将来、未来への投資になるはずです。医学はまだまだ分からないことが多いので、基礎研究でのさまざまな試みが必要だという現実を、広く知ってほしいと思っています。越智:今回の大学院再編では、異なる領域の研究・教育を融合し、社会に求められる人材を育成できる環境づくりに取り組みました。研究室同士の交流を積極的に行えるようにすることで、新たな視点を得るチャンスにもなりうると考えています。本庶:研究者が自主性に基づいて研究を進められるような環境が整っていくことを期待したいですね。越智:先生は、研究者にとって大切なものとして「6つのC」Curiosity(好奇心)、Courage(勇気)、Challenge(挑戦)、これから研究者になる人へアメリカ留学時代の恩師 ドナルド・ブラウン氏と議論平澤興先生や解剖学の西村秀雄先生の話を聞くうちに、研究をやりたいと思うようになりました。越智:私も恩師の自宅を訪ねたことがあるので、その場面が目に浮かんでくるようです。分子生物学との出会いはどのようなきっかけだったのですか。本庶:形を見てどうこうというよりも、分子を研究した方が本質に迫れるだろうという直感もありましたし、分子生物学の研究が治療につながっていくのではないかという思いも、おぼろげながらありました。2年生になると早石修先生の研究室に出入りするようになり、3年生になるころには基礎研究者としてやっていこうと決めていました。本庶:博士課程に進み、西塚泰美先生の指導を受けた際には、研究テーマを自分で考えるチャンスをいただきました。その時取り組んだのが、ジフテリア毒素がタンパク質合成を阻害するメカニズムを分子レベルで明らかにすることでした。越智:その時の論文が評価されてアメリカの大学へ行かれたんですね。カーネギー研究所、NIH(アメリカ国立衛生研究所)でさらに分子生物学の研究を深め、日本に戻られますが、アメリカには何年ほどいらっしゃった遺伝子のメカニズム解明に向けた挑戦研究者にとって大切な6つのCCuriosity(好奇心)Courage(勇気)Challenge(挑戦)Condence(確信)Concentration(集中)Continuation(継続)「何が大切な課題であるか、何が一番知りたいかを自分で見つけることが大事である」と学生たちにエールを送った05
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