広島大学では理学部に在籍し、素粒子物理学を研究していました。2010年には大学院を単位修得退学してワシントン大学へ留学。現地で人類学の研究に打ち込んでいましたが、講義中のある出来事が、私の人生を大きく変えました。ノートに描いていた人体図を目にした指導教員から「科学イラストレーターの道へ進んでみてはどうか」と勧められたのです。 科学イラストレーターとは、「科学的な知識を一般の人にも分かるように描いた説明図」を手掛ける人のこと。それまでも学部生の授業のアシスタントをしていた際は、絵で説明することを得意としていました。また研究内容をより分かりやすく伝えたいという思いもあったため、教員の一言をきっかけに本格的に科学イラストレーターを目指すようになりました。 専門の養成講座に通い腕を磨いた後、コーネル大学鳥類学研究所やスミソニアン国立自然史博物館で経験を積み、2016年に京都大学iPS細胞研究所へ。科学イラストを描く上で、最も大切なのは正確さ。あくまでも「科学」を描くので、どんなに美しくても科学的に嘘があれば描き直しになってしまいます。生物の構造に関する細かな知識など、事前の入念なリサーチは必要不可欠です。また資料的なイラストだけでなく、広報誌の挿絵などデザイン性の高いものを手掛けることも。ゴッホのパロディを交えて論文の内容を表現した絵が、アメリカの科学誌『セル』の表紙に選ばれるという貴重な経験もできました。正確性とデザイン性のバランスをどう両立するかは依頼によって異なるため、依頼主とのコミュニケーションが大切です。相手のイメージや細かなニュアンスを拾い上げるために、直接会って言葉でやり取りするよう心掛けています。絵で伝えることが得意でこの道を選びましたが、今では絵と言葉、両方を駆使して仕事に向き合っています。 中学・高校と女子校で美術部に所属していましたが、広島大学での4年間は、それまでとは打って変わって柔道部での活動に明け暮れた日々でした。「まったく違う環境に身を投じたい」と思ったのが入部のきっかけです。柔道部では、厳しい練習を続ける忍耐力や礼儀など、多くのことを学びました。留学や科学イラストレーターなど、これまで多くのことに挑戦し続けられたのも、柔道部での経験があったからこそだと思います。広島大学で学んでいる後輩の皆さんにも、大学生活のなかで何か一つでも良いので真剣に打ち込む経験をしてもらえればと思います。科学イラストを通じて、専門知識を一般の人にも分かりやすく伝える大内田 美沙紀科学イラストレーターさんおおうちだ・みさき/広島大学理学部2004年度卒業、大学院理学研究科博士課程前期2006年度修了、博士課程後期2010年度単位修得退学。2012年度、博士(理学)広島大学。2010年に渡米し、ワシントン大学で人類学修士号を取得する傍ら、科学イラストの専門コースを受講。米スミソニアン国立自然史博物館などで経験を積み、2016年より現職。古生物を含むさまざまな生物の正確かつ色鮮やかなイラストに加え、生命科学や医学の分野でも作品を制作している。休日は鴨川で鳥の絵を描く。柔道に打ち込んだ4年間が、その後の挑戦を支えてくれた(京都大学 iPS細胞研究所)学生広報ディレクター教育学部3年さん堀 里実Report学生広報ディレクター取材前は、科学イラストレーターとはどんな仕事なのかあまり想像がつかなかったのですが、一般の人には難しくて理解しづらい科学を、誰にでも分かるイラストという形にして届ける、とても素敵な仕事だと分かりました。また、取材を通して、新しいことに果敢に挑戦する大切さを学べました。©Cell Press20Hiroshima University Magazine
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