原本から読み説く近松ワールド 江戸文学の背景に迫る学問分野:人文学/文学/日本文学 キーワード:近世和歌、江戸狂歌、幕臣文壇人数:学部生8人、大学院生4人、教員1人当研究室の先輩小説家・小山田 浩子さん(著書『穴』で第150回芥川賞受賞)05teamDATA久保田 啓一 (くぼた けいいち)研究室大学院文学研究科 日本文学語学分野REPORT潜入チーム広大先輩から後輩へ受け継ぐ息の長い研究考え抜いて生まれる新たな解釈が、物語の可能性を広げる 学部3年生から大学院の博士課程後期生までが参加し、近世日本文学の輪読会を行う久保田ゼミ。現在扱っている作品は、江戸時代の浄瑠璃・歌舞伎作家、近松門左衛門の『酒呑童子枕言葉』だ。未だ注釈がつけられていない本作を正しく理解するには、一語一句を吟味し、慎重に読み進める必要がある。ゼミでは学生が分担して原本のくずし字を解読し、近松の他作品も参照しながら語釈と現代語訳を進めている。難易度が高い作業ではあるが、自分で考えて文献を読むという行為が、将来に生きる経験になるというのが久保田教授の考えだ。 先入観を持たない学生の解釈によって、作品の意味がつかめる場面もある。活字本では単純接続「て」として示されている部分を学生が打ち消しの意味「で」だと気付いたことで、文脈が正しく読めるようになった。こうした発見は、学部生・院生に関係なく、徹底的に一つの文章を考え抜くことによって可能になる。 精密な解読作業を行うには、長い歳月が必要だ。一作品を読み終えるまでにゼミ生の世代が変わり、最長で7~8年かかることもあるが、その分達成感は大きい。初めて輪読会に参加する3年生には、最初にそれまでゼミの先輩が行ってきた解釈の結果や研究内容を紹介。長年の研究を受け継ぐことで、バトンを渡された学生が自らの解釈の重要性を実感しながら学ぶことができるのもこのゼミの魅力だ。 高校までは詳しく習う機会がない近世文学に挑む学生には、自分なりの問題意識を持ち、その答えを求めて研究に取り組む人が多い。物語内の母と娘の関係性や遊女たちの実生活についてなど、卒業研究のテーマは多種多様だが、今まで学生が提示した研究内容が却下されたことは一度もないという。「特に制限を設けず、自らの興味関心の追究を第一に指導している。一見奇抜なテーマでも、他作品との共通性や、設定に見られる当時の趣向などを考察していくうちに、時代背景が分かってくる。現代とは全く異なる時代の様子をそれぞれの方法で研究してもらうのが、ゼミの本旨だ」と久保田教授は醍醐味を語る。15
元のページ ../index.html#16