私の研究分野は「衛星水色リモートセンシング」であり、人工衛星などから観測した「水の色」から水域の環境を解析することを目的としています。これまで、水域の環境調査には船を使うのが一般的でした。しかし、船だけでは広い水域の調査に限界が生じるため、最近では人工衛星や飛行機、ドローンなどを利用した「水色リモートセンシング」という技術が注目を集めています。リモートセンシングとは、対象物に触れずに離れたところからその形状や性質を観測する技術のことで、対象物から放射される電磁波や太陽光による反射によって測定が行われます。 衛星水色リモートセンシングの技術を利用すれば、濃い緑色をした水は植物プランクトンが多く、水が茶色がかっていれば土砂が多いなどという判定が可能になります。その判定を定量的に行うことによって、海洋や湖沼の汚染状況を把握し、対策が必要な地域の特定や漁業資源の管理などに役立てます。また、植物プランクトンの量は海のCO2の吸収量と密接な関係があるので、地球全体のCO2の収支を見積もる地球温暖化の研究にも大きく貢献しています。 レジ袋やペットボトルに代表されるように、身近なプラスチックの多くは透明もしくは半透明です。そのため、通常のデジタルカメラのような衛星センサーで写真を撮影してもプラスチックを検出できません。しかし、私たちの目に見えない近赤外線における特定の波長には、プラスチック特有の光吸収が見られるため、これを利用すればプラスチックごみの検出が理論上可能になります。そこから私たちは実際の海岸や衛星データで検証を重ね、リモートセンシングによるプラスチックごみ検出の有効性を見出しました。また、プラスチックはポリエチレンやポリスチレンなどの種類によって光の吸収率が違うため、近赤外線カメラで撮影すると、見た目では分からないプラスチックの種類識別もできます。海岸でのごみの調査はいまだに人の手で行われていますが、この技術を応用すれば効率的な調査法が確立できるのではと期待しています。 昨年の西日本豪雨の際、衛星画像の分析から、川から大量の土砂が流れ出ている様子や海の潮目に木くずがたまっていることが判明しました。それがきっかけで、現在は衛星画像を利用した海洋ごみの検出にも取り組んでいます。細かいごみの検出は解像度などの技術的な課題がありますが、ある程度量が多いものであれば衛星画像から探査が可能です。 近年プラスチックをはじめとしたごみが海を漂い、地球環境に悪影響を及ぼしていることが問題視されています。海外には、東南アジアやアフリカなど、日本に住む私たちには信じられないほど大量のごみ問題に悩む地域がたくさんあります。今後の目標はリモートセンシングの技術を応用した、精度の高いごみの分布図の作成です。世界のごみ問題の実態を可視化することで、人々に関心や危機感を持ってもらい、環境問題に少しでも貢献したいと考えています。身近な疑問を、異なる専門分野の研究者視点で解説!今回は世界でも問題となっているプラスチックごみへの対策に迫ります。?学問の探求教授が答える、社会の“?”人工衛星から海洋や湖沼のごみを見える化するさくの・ゆうじ/主な研究内容は、リモートセンシングによる海洋・湖沼の水質モニタリングや藻場・珊瑚礁の簡易底質マッピングシステムの開発など。専門分野 : リモートセンシング呉市 広観測した水の色から汚染状況を推定する近赤外線の利用でプラスチックの識別も可能に実態を可視化して環境問題を身近に考えてもらう「海洋工学」から西日本豪雨後の衛星画像。矢印の先に木くずが集積(赤い部分)ドミニカ共和国オサマ川周辺のごみ大学院工学研究科 輸送・環境システム講座作野 裕司 准教授通常のデジタルカメラ(左)と近赤外線カメラ(右)で撮影②食品トレー①レジ袋③計量カップ④ペット ボトル②①③④12Hiroshima University Magazine
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