HU-plus (vol.10) 2019年度8月号
11/32

広大微生物特集和崎 淳 教授クラスター根を形成するマメ科植物ルーピン水耕栽培したヤマモガシのクラスター根大学院統合生命科学研究科植物栄養学・土壌微生物学植物の根は水や養分を吸収するだけでなく、多様な物質を分泌する。分泌された物質と根の周りの土壌(根圏)に存在する微生物が植物にどのような影響を与えるのかを、和崎教授は研究している。研究対象はクラスター根と呼ばれる、歯ブラシのような房状にできる根だ。クラスター根は有機酸を多量に分泌する。有機酸は植物にとって必要な養分であるリン酸を溶かし、吸収しやすい形にする。植物の根圏に生息する細菌などの微生物が土壌中のリン酸の利用促進に関わっているという。自然界に存在する微生物の群集が、植物とどのように影響し合うのか、和崎教授はその関係性を探究している。「根圏の微生物動態は植物の健康状態と密接な関係があります。培養が困難で未解明なことが多く、これから挑戦しがいのある分野と感じています」と語る。クラスター根を形成する植物は、土壌の条件などから南半球に多い。自生の北限と考えられている宮島で、和崎研究室がヤマモガシからクラスター根を発見したことが、現在の西オーストラリア大学との国際共同研究に発展している。同じクラスター根を形成するマメ科の植物・ルーピンの研究では、トウモロコシと混植することでリン酸の吸収能力を向上させる可能性があることを示した。「クラスター根のメカニズムを解明し、一般の植物に応用できれば、将来的に肥料の使用量を抑制できる。環境低負荷型農業の実現というSDGsの目標に貢献できると思います」CASE-3植物と土壌、微生物の関係を探究登田 隆 特任教授植物抽出液が、がん細胞の分裂を阻害する肉眼では確認できなかった酵母は分裂を繰り返し、3日ほどで目に見えるくらい増える大学院統合生命科学研究科分子細胞生物学ヒトの体は60兆個の細胞でできているが、その出発点は精子と卵子が融合(受精)した、たった一つの細胞だ。そこから気の遠くなるような回数の分裂を繰り返し、ヒトの体が作られる。登田研究室では、ヒトと酵母の細胞分裂のメカニズムがほぼ同じであることに着目し、酵母を使い細胞がなぜ分裂するのかを研究している。ヒトの細胞は1回の分裂におよそ24時間かかる。酵母は10倍以上の速度で分裂する。この酵母の性質を利用することで、研究は10倍の速さで進むことになる。ヒトやマウスを使う場合に比べて、安価でしかも実験スペースをあまり取らないという利点もある。最近、岩手大学・理化学研究所との共同研究で、がん細胞だけを殺す分子を植物から発見した。がん細胞は必要以上に細胞分裂を繰り返して増殖し、ヒトを死に至らしめる。がんを起こす遺伝子を酵母に入れると酵母は増殖できなくなるが、ある植物からの抽出液をそこに加えるとまた酵母が活動し始めることがわかった。植物由来の成分が、がん細胞だけを殺し、他の細胞の活動は妨げない、つまりは副作用の少ない抗がん剤に結び付く可能性が高い。900種類以上の植物で実験を繰り返し、有力な植物にたどり着いた。「それがすぐに薬としてがん治療に結び付くわけではないかもしれませんが、我々の研究が新しい抗がん剤開発へと発展することを期待しています」と登田教授は語る。広島大学は日本で最も多くの酵母研究者を擁する大学・研究機関の一つとされ、酵母を利用したさまざまな研究が進められている。CASE-4酵母を利用して、細胞の謎を明かす(抗がん剤)ヒトキネシン阻害剤ヒトガン遺伝子を導入した酵母細胞10Hiroshima University Magazine

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る