微生物にまつわる広大の研究TOPIC3坂本 敦 教授藻類ナンノクロロプシス:油滴(黄色い部分)と葉緑素(赤い部分)※試薬で染色人工気象器で培養中。将来はガソリンに取って代わるかもしれない大学院統合生命科学研究科植物分子・生理科学地球温暖化抑制のため、CO2排出量削減が叫ばれるようになって久しい。主要なCO2排出源の一つが自動車であり、対応策の検討が進む中、ガソリンに代わる未来の自動車用燃料として期待されているのが「微細藻類バイオ燃料」だ。微細藻類とは、葉緑体を持った肉眼では見えないほど小さな単細胞生物を指す。この生物が光合成をもとにつくり出す油脂を燃料として活用しようというわけだ。光合成時にCO2を吸収するため、燃料燃焼時にCO2が発生しても排出量は差し引きゼロになる勘定だ。現在、実用化には二つの壁がある。一つ目は、油脂の組成の問題だ。燃料向けか食用か、油脂の用途は「脂肪酸」の組成に左右される。燃料に適した脂肪酸組成の油脂を生む微細藻類が必要となるのだ。二つ目に、培養における問題がある。微細藻類には生育が阻害された時に多くの油脂を蓄積する性質があるが、実用化に向けては生育と油脂蓄積を両立させ、安定的かつ大量に培養する技術が必要となる。微細藻類バイオ燃料が抱える難題について、ブレークスルーを目指しているのが本学の坂本敦研究室、山本卓研究室、そして東京工業大学、マツダからなる共同研究チームだ。東京工業大学の研究でバイオ燃料生産に適した微細藻類「ナンノクロロプシス」が見いだされ、高度なゲノム編集技術を持つ山本研究室が、油脂生産能力をさらに高める研究を行っている。坂本研究室では培養技術を探究しており、課題であった生育と油脂蓄積の両立への道筋も見えてきた。その先には、実用化に向けたマツダでの燃料特性評価が待つ。革新的な技術がどう実を結ぶのか、今後の展開に期待は高まるばかりだ。CASE-1革新的なバイオ燃料の実現に向けて田中 純子 教授 WHOとのミーティングカンボジアでは、現地の大学生スタッフと一緒に住民の血清疫学調査を実施大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学人類にとって、いつの時代も大きな脅威であるウイルス。今も世界中の人々の健康と生命を脅かし続けている。「肝炎ウイルス」もその一つだ。肝炎ウイルスにはA・B・C・D・Eの5種類があるが、中でもB型・C型に感染すると慢性化する場合が多く、20~30年の間に慢性肝炎、肝硬変、そして肝がんにまで進展することが知られている。この疾病を減らすため、肝炎ウイルスを対象とした疫学の研究に取り組むのが田中研究室だ。「B型・C型肝炎ウイルス感染者を発見し、早期に治療する」ことを目的に、日本を含む世界各国に感染者がどの程度いるのか、どのように感染者を見つけるのか、感染の予防・対策はできるのか、などさまざまな角度からアプローチしている。2016年、世界保健機関(WHO)が「2030年までに世界中からB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスを排除する」というビジョンを掲げた。以前からカンボジアで調査研究をしていた田中研究室は、2017年WHOと協力し、同国全土を対象とした無作為抽出による大規模な血清疫学調査を初めて実施。2520組の母子への調査により、途上国におけるウイルス肝炎の現状と肝炎対策の効果を「見える化」した。「日本で積み重ねてきた肝炎ウイルスに対する知識・経験は、まだ感染率の高いアジアやアフリカの国で大きく役立つ可能性があります」と田中教授は語る。カンボジアでのプロジェクトも、課題解決に向けた新たなフェーズに入った。B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスのない未来は着実に近づいているようだ。CASE-2疫学的アプローチで肝炎ウイルスと闘う09
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