Ochi itsuoM 越智光夫 接、物申すべきだ」と内閣府の委員会に学術会議メンバーをどんどん入れてもらいました。結果として、若手の自由で挑戦的な研究を最長10年間支援する「創発的研究支援事業」をはじめ、成果はあったと思います。越智 広島大学でも創発的研究支援事業に7人の若い研究者が採択されました。破壊的イノベーションの担い手を育てるには、既存の枠にとらわれない発想が不可欠だと思っています。京都大学総長の在任中で一番印象に残っていることは何ですか。山極 トップの立場から見渡すというのは、全然違う経験なんですね。京都大学は2022年に125周年を迎え、改めて大学の歴史を見直す機会を得ました。京都大学を実質的につくったのは首相を2度務めた西園寺公望です。西園寺はフランスに9年間留学し、初代総長の木下広次も7年間留学しているので、フランスの自由な思想を強く意識してつくられたと言えます。官吏養成の東京大学に対し、京都大学は自由な研究をする大学として出発したのです。欧州の大学と比べると基礎研究より実学を重んじたのは確かですが、京都大学は研究を相当意識していた。その伝統があるからこそ戦後、日本初のノーベル賞受賞に結びついたのではないかと思います。「遠き慮(おもんぱか)りなければ必ず近き憂いあり」は、大学運営にも当てはまります。目先にとらわれていると、大学の個性はつくれません。越智 広島大学は1874年創設の白島学校の流れをくむ広島師範学校など、9つの前身校を母体に1949年、新制大学として創設されました。初代の森戸辰男学長は戦前、筆禍事件で東大助教授の職を追われましたが、戦後は衆議院議員や文部大臣を歴任し、地元の強い要請で広島大学長に就任したのです。私自身、森戸学長の論稿や自伝をひもときました。先人の足跡を振り返る中で今後のかじ取りをする視点を学んだのは、山極先生と同じですね。国立大学には社会の要請に応えるミッションとともに、長期の展望を持って自由にやれるという大きな強みがあると思います。ただ、学部の中だけで教員人事を進めると、新たな分野から人を選ぶオートノミー(自律性)はなかなか期待できません。広島大学は2016年度に学術院を設置して人事の一元化を行いました。内に閉じた人事ではなく、大学全体を見渡して人事を行う姿勢が必要と考えたからです。山極 新しい時代に向かって開かれた人事をしていかないと、閉鎖された社会だけで人を選んでしまいます。京都大学も2016年度から学域・学系制を導入しています。学部や研究科に教員が所属するのではなく、もっと広い学域・学系に属する形に人事を透明化しました。それが今の時代の要請だと思います。広広島島大大学学学学長長山極氏はゴリラの研究を紹介しながら、「人間は集団で生きるために共感能力を身につけて脳を大きく進化させ、言葉を獲得した。しかし現代では個人と集団が切り離され、情報のみで繋がっているために共感能力を使う機会が少ない」と語り、「大学では知識だけでなく共感力を高め、自分をアピールする能力を持ったグローバル人材となってほしい」と学生にメッセージを送った06リーダーとしての視点京都大学前総長で、総合地球環境学研究所所長の山極壽一氏が2022年5月、教養特別講義「世界に羽ばたく。教養の力」で広島大学を訪れました。新入生450人に「科学技術と大学教育」と題して講演した後、越智学長と対談。ゴリラ研究を志したきっかけからリーダー論、激動する時代の大学の在り方まで、縦横に語り合いました。ルのリーダーを語る
元のページ ../index.html#7