広島大学案内2022-2023概要版
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Yamagiwa Juichi山極壽一氏 越智 山極先生とは、国立大学協会(国大協)や日本学術会議で親しくさせていただきました。本日は京都大学総長時代をはじめ、子どもの頃のこと、またゴリラ研究の醍醐味などをお伺いしたいと思っています。6年間務められた京大総長を退かれた後、現在はどのような日々をお過ごしですか。山極 京都にある総合地球環境学研究所の所長をしています。総合地球環境学研究所は、大学共同利用機関法人の人間文化研究機構を構成する6研究機関の一つ。自然科学系の研究所に聞こえますが、人文学、すなわち人間の文化の研究を主体として環境問題をはめ込むタイプの研究所で、公募して資金を出すプロジェクトは文理融合が条件です。越智 京大総長在任中には国大協会長、日本学術会議会長を務められました。私自身も国大協理事や学術会議の委員を兼務しましたが、学長の仕事との両立に苦労しました。山極 国大協も学術会議もいろいろ問題を抱え、毎週のように上京しました。京大の理事から「山極さんはいつ京大にいるんですか」と皮肉を言われましてね。大学に役員会での決裁が必要な案件がたくさんあり、担当理事に話を毎週一回は聞いて自分の意見を述べるようにしました。しかし振り返ってみると、なかなか京大のために時間を割けなかったと思います。越智 その代わり、先生は日本のために時間を割いたと私は理解しています。2015年に文部科学省から国立大学に対して、3つの重点支援の枠組みが提示されました。地域のニーズに応える人材育成・研究を推進する地方大学、分野ごとの優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進する単科大学等、そして世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進する研究型大学です。86の全国立大学がいずれかの枠組みを選択することになりました。広島大学や京都大学は研究型大学を選んだのですが、国大協の会長としてどのように受け止めていましたか。山極 文科省は「単なる表面上のことで大学の本質は変わらない」と言っていたのですが、大いに変わったわけです。当時は「人生100年時代構想会議」とか「まち・ひと・しごと創生会議」とか中央教育審議会や総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)もあって、政府系の委員会がこぞって大学改革を叫んでいました。それまで大学は個性的で、地方大学といえども世界に打って出るところは少なくなかったし、それぞれの伝統に従っていました。ところが3分類の枠にくくってしまい、それに沿ったミッションを政府誘導の下に立てさせようとしたわけです。そもそも国立大学法人化は自由な運営を尊重し、資金と人材を裁量できる自由度を増すためだったはず。それが一律の目標に誘導され始めた。相当闘いましたね。運営費交付金の毎年削減を止めたのは一つの功績だったと思いますが、大学が自由に使えるお金が減る時代になってしまいました。越智 学術会議の会長としても、いわゆる「軍事研究」の取り扱いをめぐる課題などに取り組まれましたね。山極 会長に就任する直前の2017年3月、安全保障技術研究推進制度の公募に対し、学術会議は「戦争を目的とする科学研究は絶対に行わない」とした過去の声明を継承する「軍事的安全保障研究に関する幹事会声明」を出しました。さまざまな議論が起こったことを受け、大学や学会、産業界で議論・検討してもらい、外部資金で軍事研究の疑いがある研究をする場合は、大学がそれぞれのガイドラインに沿って妥当かどうか判断する組織をつくることになりました。是非を問うだけでなく、実際に自分たちの研究の結果に対し研究者として責任を持つべきだという議論を、学術会議を中心に行いました。また、科学技術基本法改正では、「人文科学のみに係るものを除く」との規定が学術会議の主張に沿う形で削除されました。また、「政府の司令塔である内閣府に直総総合合地地球球環環境境学学研研究究所所所所長長 05激動下の国大協と学術会議を率いる特集 対談大学というジャング

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