ブックタイトル東日本大震災・福島原発災害と広島大学

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概要

東日本大震災・福島原発災害と広島大学

57①専門家として空中写真を基に津波被災マップ作る大学院文学研究科 地表圏システム学講座 准教授 後藤秀昭 平成23 年3月11 日東北地方太平洋沖地震による津波被害は、その広域性から地理的分布の把握とその情報提供において困難を極めた。被災分布をできるだけ迅速・正確に把握して、救援活動や復興計画の策定に資するデータを提供することが必要と考え、日本地理学会の災害対応本部に津波被災マップ作成チームをつくり、そのメンバーとして活動した。具体的には、地震直後に撮影された空中写真を詳細に実体視判読を行い、津波被災マップを作成して、ウェブ等で公開した。このチームの事務局は名古屋大学に置かれた。 国土地理院をはじめ他機関も津波被災マップを作成しつつあったが、実体視判読による精密な判読が可能な自然地理学研究者が複数で作成・議論した点や、浸水範囲の他、激甚被災地域(家屋の多くが流される被害を受けた範囲)を特記した点、およびシームレスな地図のウェブ公開を早期に実現した点に特徴があった。 実体視判読は、津波の空間的挙動を考慮した判読ができるために誤読が少なく、現地調査を行わなくても広域的に精度の良いマップを短時間で作成することを可能にした。また激甚災害地域を迅速に特定したことにより、産学官民の様々な分野で利用された。 広域を対象としており、空中写真、地形図など大量の資料をもとに作業を行うことや、それにより多人数での合同作業とならざるを得ないことから、役割分担・方針決定の連絡・調整に時間と神経を使わざるを得なかった。これらの作業と並行して、原発災害の原因としての地震や津波のメカニズムの議論が行われた。研究者としての興味・関心や責任と、津波被災マップ作成といういわば業務との時間的配分に苦慮した。 教訓として得られた点は、①被災直後(数日間)の空中写真撮影の重要性と ②マッピングおよび情報提供の体制構築の重要性である。特に、津波被災確認においては、地面に津波の痕跡が残っている間に撮影されることが重要である。また、クロスチェック可能な写真判読体制のほか、データ管理者・GIS 数値情報化担当者・ウェブ掲載作業者間の役割分担が欠かせない。さらに、地図情報の法的利用等、保証できる精度の範囲を超える誤った情報利用が行われないようにするための対応体制も必要になった。 近い将来に発生が予想される南海トラフに沿った巨大地震での対応では、予想される被災地から適度に離れた場所にある広島大学に期待される役割は小さくないと考える。なお、本チームの活動内容等の詳細は「東北地方太平洋沖地震による津波被災マップの作成経緯と意義」(松多信尚・杉戸信彦・後藤秀昭ほか、E-journal GEO、2012)を参照いただきたい。