ブックタイトル東日本大震災・福島原発災害と広島大学

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概要

東日本大震災・福島原発災害と広島大学

44第3章 被災地に寄り添う②住民の一時立ち入り支援住民の心に寄り添う支援病院看護部 高度救命救急センター 看護師 佐々智宏 平成23 年6月6日?11 日、田村市古道体育館と川内村村民体育センターで、福島第一原発から半径20km圏内に設定された原子力事故警戒区域における一時帰宅中継地点の住民に医療的サポートを実施した。 中継地点出発前の健康調査では、1日あたり150?330 人前後の問診表に短時間で目を通した。必要に応じて住民の顔を見ながら問診を行い、医師の診察を必要とする対象住民を選出した。また、住民の既往歴や内服薬の把握、そして一時帰宅にかかる4?5時間に耐え得る体調であるかを鑑みながら要注意者を選出した。 一時帰宅者の医療情報は厚生労働省医療班、統括医師、日赤医療班、DMAT(災害派遣医療チーム)、救急隊、安全管理者等へ共有資料を整理し出発前に配布した。他医療チームと共有資料を作成する時間は、一時帰宅のバス出発までの猶予が少なく大変忙しかったが、万全のサポート体制を準備するために必要なことであった。 6月とはいえ、晴天下の体育館で密封性の高い防護服を長時間着用して行う一時帰宅事業は、実際の外気温に比べて体感温度が暑く感じられた。そのような中、一時帰宅のバスが帰着した時は真っ先に車内に乗り込み、一時帰宅から戻った住民の体調不良者を見つけて、初期観察を実施した後に優先的に下車できるように配慮した。 一時帰宅に使用されたバス車内は全面に養生シートが貼られているために通路が滑り易く、狭いバス車内の通路を両手で重たい荷物を抱えて、足元が見えない状態で降車することは困難に感じた。住民の転倒・転落予防のために荷物の運搬を手伝いながら、サーベイ会場内における住民の体調観察も並行して進めた。 避難住民は久しぶりに自宅へ戻れる嬉しさと期待の一方で、目に見えない放射線、続く余震、長期化する避難所生活への不安、失業問題等を抱えながらの一時帰宅であった。目の当りにした自宅の惨状に加え、泥棒に侵入されたり家財を盗まれたりして、心は傷付いていた。これらの心の内をじっくり傾聴する時間は、ほとんど用意されておらず心理的に寄り添うサポートは十分にできたとは言い難かった。 今回の経験から、放射線災害医療の迅速な初動体制の構築には、他施設の関係者とコミュニケーションを通して良好な信頼関係を築き、事業遂行に向けた協働が必要不可欠であると考える。一時帰宅事業中継地点における出発前の会場風景