ブックタイトル東日本大震災・福島原発災害と広島大学

ページ
27/84

このページは 東日本大震災・福島原発災害と広島大学 の電子ブックに掲載されている27ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

東日本大震災・福島原発災害と広島大学

17① DMAT 出動正確な情報共有と心のケアの必要性病院看護部 高度救命救急センター 看護師 原 茉依子 広島大学病院DMAT チームは、東日本大震災発生当日に宮城県へ向け出発した。移動手段は、安全面と健康面を考慮し車両と海上自衛隊の輸送艦となった。移動中に福島第一原子力発電所の事故情報が入り、派遣先は急きょ福島県に変更となった。現地の状況把握や被ばく医療に対する準備も十分できない中、不安や恐怖を抱きながらも隊員同士で使命を確認し合い、他のDMAT チームとも信頼関係を築くように努めた。 福島県DMAT 本部に到着後、私たちは二本松市の男女共生センターにおける被ばく検査の対応任務が指示された。センター内には、福島第一原発の半径10km 圏内にある病院から避難した患者と医療従事者、センター職員・保健所職員約290 人がいた。 私たちは迅速にトリアージを行い、病院搬送が必要な重傷者8人に対して医療処置を施した。センター外へ移動するための放射線量測定により、8人の患者全員が設定された被ばく線量値を超過しており、自衛隊と協働して除染を行い救急車で搬送した。センター外では、半径20km 圏内から避難した住民や自衛隊機で救助された老健施設の利用者、救助活動後の消防隊・救急隊・警察・救護班等に対する放射線量測定と除染を行った。さらに、福島県立医大病院内のドクターヘリ運航調整補助業務、DMAT 本部の事務作業補助業務を行った。 今回、最も問題に感じたことは、大震災に加え被ばくも重複した大災害の中で、圧倒的な情報不足と情報経路の遮断であった。医療救護に必要な指揮命令系統の確立と自らの安全確保のためには、正確な情報共有と状況把握が必須である。しかし、遠方に加えて大規模災害であったため、被災地や自らの置かれている状況を把握する手段がなく、不確実な情報に惑わされることによる活動の停滞や移動手段の確保が問題となった。 また、DMAT チームはこれまで様々な状況を想定した訓練に参加してきたが、その成果が被災現場で十分に発揮できない悔しさを感じた。被災者は予期せぬ大災害に対する恐怖と、目に見えない被ばくへの不安、情報不足による孤独感や今後の生活に対する絶望感にさいなまれていた。医療活動だけでなく正確な情報提供を通して過度の苦悩を軽減できるよう、早期から心のケアを行う重要性を痛感した。 私は、派遣活動のため福島県に3度訪問した。悲惨な状況を目の当たりにし、余震による強い揺れを頻回に体感しながら活動する中で、人の強さや温かさを知った。訪問する度に少しずつ復興していく街の様子から勇気をもらい、より一層の研鑽を心に誓った。海上自衛隊輸送艦「くにさき」の前で