HU-plus(Vol.6)2018年4月号
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大学院総合科学研究科林 光緒教授「睡眠負債」と一億総活躍社会『快適な眠りのための 睡眠習慣セルフチェックノート』(全日本病院出版会)林教授が共著した睡眠の基礎知識から、睡眠改善のアイデアまで詰まった実践書 「毎日6時間寝ているのに眠くて仕方ありません。どうしたらいいでしょう。」と学生から質問を受けることがよくあります。不思議ですが、自分が睡眠不足だと気付いていない学生はとても多いのです。 「睡眠負債」という言葉が2017年の流行語大賞にノミネートされました。休日に私たちはよく「寝だめ」をしますが、寝だめは貯金ではなく、睡眠負債を埋め合わすためのいわば借金返済にすぎません。睡眠負債を抱えた結果、朝起きられずに遅刻や欠席を繰り返し、授業に出ても居眠りしてばかりで単位を修得できず、4年間で卒業できない学生もいるぐらいです。 人類は、その長い歴史の中で、夜は火の明かりが照らす限られた範囲のなかで細々と活動するか、眠るしかありませんでした。エジソンが電球を世に広めてからは、人工照明の下、夜も日中と同じように活動できるようになりました。しかし、夜の闇を制御できれば睡眠をも支配できるというのは、幻想にすぎません。人間も生物の一員である以上、生命現象から逃れることはできません。昼行性動物である人間は、夜眠り、朝目覚めるというのが自然の摂理です。それに逆らう生活を送れば、心身に悪影響が出るのは当たり前で、睡眠負債は自然の摂理に逆らう所業にほかなりません。 最近、睡眠に関する書籍やマスコミ報道が増えてきましたが、最初に挙げたような学生からの質問は減ることはなく、睡眠教育の必要性を実感しています。そこで、2010年から「睡眠と生活リズム」(2018年から「睡眠の科学」に名称変更)という授業を広島大学の教養教育のなかで立ち上げました。レポート課題として2週間の睡眠日誌を2回つけさせ、睡眠改善に取り組ませます。改善の基本は、「朝決まった時刻に起きる」こと、「朝起きたら太陽の光をあびる」ことです。これによって生物リズムが整い、1週間もすれば目覚まし時計が鳴る前から自然に目が覚めるようになります。朝からしっかりと目が覚め、授業中の居眠りもなくなります。夜は自然に眠くなり、決まった時刻に眠れるようになります。 このような体験をした学生は、朝から元気で一日が充実しているとレポートに感想を述べています。このように生物としての自然の摂理を守ることが心や体の健康につながります。睡眠は、一億総活躍社会を実現するための必須アイテムだと思います。016

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