HU-plus(Vol.6)2018年4月号
12/32

月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者に分かりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2017年9月に創刊46年を迎えました。SPECIAL REPORT感性の可視化・定量化からものづくりへの応用を目指す世界のトップ100大学に向けて挑戦する広島大学の取り組みをシリーズで紹介し、将来性を探っていきます。産学の知を結集した拠点で基礎研究を深める感性イノベーション拠点では「感性」を「外受容感覚情報(知覚・体性神経系)と内受容感覚情報(自律神経系)を統合し、過去の経験、記憶と照らし合わせて生じる情動反応を、より上位のレベルで俯瞰する高次脳機能である」と定義。可視化から、社会実装までを進めている。感性の脳ネットワーク可視化と感性メーター開発 物の豊かさから、精神的価値がより重視される時代にあって「感性」が注目されている。 2013年に文部科学省と科学技術振興機構(JST)が、革新的なイノベーションを産学連携で実現するために立ち上げたプログラムにおいて、全国25拠点の一つとして「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」(感性COI拠点)が採択され、広島大学は、その中核機関に位置付けられる。 広島大学には、「感性工学」の伝統がある。1995年まで工学部教授を務めた長町三生氏(現・名誉教授)は、感性工学の提唱者の1人だ。1990年代以降、快や美を感じる人間の感性の仕組みを解明して、さまざまな製品開発に応用しようという研究が広まりつつある。 そこからさらにステップアップし、COI拠点では感性を科学的に究め、さらにものづくりへの実装を目指しており、山脇成人特任教授が、感性イノベーション推進機構副機構長として研究リーダーを務める。また、同機構長およびプロジェクトリーダーである農沢隆秀氏は、マツダ技術研究所技監であり、同社をはじめとして、アンデルセングループ、コベルコ建機など、県内外の企業も参画機関として名を連ね、産学の知を結集した取り組みを進めている。脳生理情報から感性を定量的に評価 山脇特任教授は精神科医で、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラムのうつ病研究拠点チーム長である。広島大学は山脇特任教授を中心に、感性や知覚の可視化といった、基礎研究の最も中核となる部分を担う。 感性COI拠点では、感性を「外受容感覚情報(知覚・体性神経系)と内受容感覚情報(自律神経系)を過去の経験、記憶と照らし合わせて生じる情動反応を、より上位のレベルで俯瞰して予測するときに誘発される高次脳機能」と定義している。外受容感覚とは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)など知覚神経を介して脳に伝えられる情報。一方の内受容感覚は、内臓から自律神経を介して入ってくる。両者の感覚が大脳皮質の連合野で統合され、内受容感覚から予測したものと、それらの予測とのギャップ(予測誤差)への気付きが感性の本質的メカニズムと考えられている。 当初の3年間はフェーズ1と位置付けられ、COI拠点の笹岡貴史准教授らを中心に、まず、脳生理情報を用いた感性の定量的な評価が試みられた。 快/不快、活性/非活性、および期待感という3軸を設定し、快、活性、期待感がいずれも高い状態を「ワクワク感」が高いと定義した。ワクワク感とは、過去ふかん011

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る