HU-plus(Vol.2)2017年1月号
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ッタイツメガエルなどの系統維持や国内外への配布を行っている。NBRPは、ライフサイエンスの研究基盤として、モデル生物等のバイオリソースの整備を行うとともに、それを利用した研究を推進するものだ。 新センターについて、矢尾板教授は、「両生類を用いた疾患モデルの研究開発や両生類が持つ独特な機能分子を利用した医療・工学への応用など、従来は行ってこなかった研究分野への展開を積極的に推進し、社会貢献もしていきたい」と意欲的だ。 2016年10月には、両生類研究センターの新設を祝うかのように、大きな研究成果が飛び出した。鈴木厚准教授を始めとする広島大学の3人の研究者が参加する国際コンソーシアムの論文が、英国科学誌『Nature』10月20日号に掲載されたのだ。 研究は、2種類の祖先種が異種交配して、「全ゲノム重複」したとされるアフリカツメガエルのゲノムの全構造を明らかにしたというものである。表紙には、幸運なことに主要モデル生物としておなじみのアフリカツメガエルの写真が掲載された。 アフリカツメガエルのゲノム解読は、極めて難易度が高い。動物の多くは、父母のそれぞれに由来する1セットずつのゲノムを持つ「二倍体」だが、アフリカツメガエルは、進化の過程で異種交配し、約1800万年前に「全ゲノム重複」現象を起こし、一つの生物の中に異なる2種類のゲノムを持った「異質四倍体」である。しかも、これら2種類の塩基配列は約94%が類似しており、解析する遺伝子がどちらの祖先種に由来するかの鑑別が、非常に難しかった。 7年前からこの難題に挑んでいたチームだが、3年ほど前に登場した第3世代のシークエンサー(長い塩基配列を高速に読み出す装置)が、研究を加速させた。もちろん、機器の発展だけではなく、74人が名を連ねる分担研究者の個々の研究レベルの高さ、そして最終的に論文のまとめ役となった、鈴木准教授ほか6~7人の粘りは欠かせない。 この研究の意義について、鈴木准教授は、「生命科学、とりわけ細胞周期や発生・再生、変態の研究などをしていく上でゲノムが分かると航海図が見える感じで、研究をさらに飛躍させていく原動力になる」と語る。さらに、進化生物学の謎にも光を当てる大きな成果だ。 センターのミッションには、両生類研究を担っていく人材の育成も入る。 現代の学生は、いち早く医療などの応用につながる研究を志向しがちである。国の施策も実用化につながる研究を重視しており、NBRPもその一貫として行われている。しかし、実は現在の再生医療において欠かせないアクチビンやBMP(骨形成蛋白質)などの誘導因子が持つ中胚葉や神経形成における働きは、もともとカエルの基礎研究において見つかってきている。さらに、『Nature』誌に掲載されたような基礎科学の重要な成果もある。2016年にノーベル賞を受賞した大隅良典博士も、日本の将来に向け、基礎科学の重要性を強く強調していた。 誘導因子の発見から応用につなぐ研究にも取り組んできた鈴木准教授は、「ゲノム進化の研究も、10年もすれば医学に直結するはずで、発生・再生研究と共に両輪として力を入れていきたい」と抱負を語る。 伝統の上に新機軸を打ち出し、両生類を核とする基礎研究と応用研究、多くを詰め込んだ新センター、お手並み拝見である。        取材・文/日経サイエンス両生類研究センターの飼育室両生類研究施設を見学するガードン博士ガードン博士を囲み、施設前で記念撮影このたびゲノムが解読された四倍体のアフリカツメガエル(上)と二倍体のネッタイツメガエル(下)広大が開発したスケルピョン014

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