HU-plus(Vol.2)2017年1月号
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 広島大学理学部には1967年、世界に類を見ない「両生類研究施設」が創設された。国内外の両生類の研究を牽引してきた同施設では、絶滅危惧種を含む野生種約50種類、計3万匹を超える両生類を飼育する。2016年10月には、「広島大学両生類研究センター」(学内共同教育研究施設)としてスケールアップ、さらなる飛躍を期する。 歴史上、カエルを用いた研究は、二度ノーベル賞を受賞している。1935年、ハンス・シュペーマンの「胚発生における誘導作用の発見」。そして2012年、「成熟した細胞に対するリプログラミング」で、iPS細胞発見者である山中伸弥博士と共同受賞したのが、体細胞核移植によるクローン技術を開発した英国ケンブリッジ大学のジョン・ガードン博士である。 2016年3月、講演のために両博士は広大を訪れた際、ガードン博士は、両生類研究施設の生みの親といえる第三代広島大学長の川村智治郎博士に敬意を表したという。川村博士は1930年代半ば、両生類が実験用動物として最適なものであることに着目し、第二次世界大戦前、「両生類の人工的な単為発生の研究」で、世界的注目を浴びた。その業績を永続的に発展させようと創られたのが「両生類研究施設」で、多くの後進育成にもつながった。 名誉教授である西岡みどり博士を筆頭とする後進たちと共に、複二倍体である世界初の人工新種の作製、種間雑種におけるがんの多発、ツチガエルの特異的な性決定機構、日本およびバングラデシュにおける新種発見、透明ガエル(スケルピョン)開発、カエルやイモリのアルビノ(先天的なメラニン色素欠乏)の作製、オタマジャクシの変態の研究、さらには放射線の影響に関する研究…といった世界に誇るべき独創的成果を送り出したのだ。 それを発展的に引き継ぐのが、新たに設立した「両生類研究センター」で、最大の特徴は、従来からの柱であった発生研究部門、進化・多様性研究部門に、新たにバイオリソース研究部門が柱となり、3本柱の研究部門として整理・統合されたことだ。また、全学の共同施設となり、生物学のみならず、例えば、医学や工学といった他の分野との共同研究も推進していくことになる。 センターの創設に参加した矢尾板芳郎教授は、「広大の両生類研究の最大の強みは、両生類の系統を維持していること。野外で採取したり、取り寄せたりしなくても、すぐに実験動物として使える」と語る。 その実績から、文部科学省/AMEDのナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の拠点の1つともなっており、ネ月刊誌「日経サイエンス」は、科学・技術に関する話題の最新情報と知識を専門以外の読者にわかりやすく解説しています。研究者、ビジネスパーソン、学生が、科学技術の世界の視野を広げるために購読しています。2016年9月に創刊45年を迎えました。SPECIAL REPORT世界のトップ100大学に向けて挑戦する広島大学の取り組みをシリーズで紹介し、将来性を探っていきます。伝統の上に新機軸を打ち出し基礎と応用の両立を目指す両生類研究センター・鈴木厚准教授両生類研究センター・矢尾板芳郎教授013

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